羽田 肇
セラミックスは硬く軽量で,化学的にも安定であることから耐摩耗部材として広く活用されています.摩擦摩耗に関する技術は,私たちの生活とも密接に関わっており,環境問題や省資源,省エネルギー化に向けて欠かせない技術の一つとなっています.摩擦摩耗現象の把握には,接触面で起こる化学的,機械工学的,材料学的なアプローチを融合させて考える必要があります.近年,それら技術は,よりミクロ・ナノレベルでの現象の追究および表面の設計へと高度化しており,本特集では,そのようなセラミックストライボロジーにおける技術の最前線について紹介します. (特集担当委員:深澤孝幸)
加藤 康司
SiC,Si3N4,Al2O3,ZrO2,C(カーボン,ダイアモンド),DLC,TiN,CNx等に代表されるセラミックスは,摩擦要素のバルクあるいは硬質皮膜の材料として低摩擦低摩耗の優れたトライボロジー特性を発揮する.特にそれらの特性は油潤滑以外の使用条件において発揮され,「健全で持続可能な文明」の構築に貢献できる.
宇佐美初彦
微細粒子に対するセラミックスのエロージョンに関して,アルミナおよびサファイアの損傷機構に及ぼす加工硬化の影響を紹介するとともに,長繊維強化複合セラミックスの除去加工への適用可能性を展望する.
辻岡 正憲
DLCは低摩擦,耐摩耗の表面処理として,幅広い分野で実用化され,最近では省エネ,省資源の解決法の一つとして特に注目を浴びつつある.本稿では,構造,製法によるDLCの分類とそれに基づく特徴,適用例について解説する.
谷 弘詞
SiC表面分解法で作成した垂直配向カーボンナノチューブ(CNT)膜の磁気ディスクとの摩擦特性とCNTの応用として磁気ディスクの表面クリーン化のためのバーニッシュヘッドへの応用例について解説した.
中尾 航
自己治癒処理および低エネルギー電子線照射からなる複合表面改質技術は,多結晶セラミックス部材表面に大きな硬さ勾配を有する硬化層を形成可能であり,セラミックスの摺動特性を大幅に向上することが可能である.
岩井 善郎
硬質薄膜の表面強度に関する評価試験法の現状と,筆者らが提案している微小固体粒子の投射によるエロージョンを利用したMSE評価法の原理ならびに薄膜の表面や深さ方向の強度特性の評価事例を解説した.
三宅正二郎
注目されている超硬質膜を取り上げ,表面のナノトライボロジーの評価法として原子間力顕微鏡を用いたナノインデンテーション,ナノ摩耗,フォースモジュレーション法による評価法を具体的な例を示しながら解説する.
佐々木道子・後藤 真宏・笠原 章・鈴木 裕・土佐正弘
極限環境である高温雰囲気の耐酸化性や真空中での低摩擦等に優れた酸化物や窒化物等セラミックスを固体潤滑薄膜材料とし,コーティングにより駆動機構に応用する手法が期待されており,コーテイングプロセスのパラメーターを高精度に制御することで開発した極限トライボロジー被覆材料の主な成果を紹介する.
足立 幸志
セラミックスの水潤滑は,油を使用しない清浄な潤滑システムを可能にするため医療機器や食品および半導体製造等の特殊環境下での使用が期待される.また,地球環境負荷の少ない材料を用いた,水の低粘性に由来する超低摩擦が期待できる技術である.
佐々木信也
トライボロジー特性向上のための表面テクスチャの役割とその創製プロセスについて述べ,表面テクスチャリングによるセラミックスのトライボロジー特性改善例を紹介する.
伊勢崎 淳
宮本 俊二