三宅 通博
酸化鉄は古くから知られている代表的な金属酸化物であり,磁性材料や顔料などに産業利用もされています.酸化鉄は,組成や結晶構造によって多様な物性を示し,資源が豊富という大きなメリットもあることから,近年,さまざまな分野であらためて注目を集め,精力的に研究されています.本特集では,酸化鉄材料について,結晶構造制御や形態制御などの合成技術と,多様な物性を活かした応用展開の可能性を紹介します.特集を通して,古くからあるありふれた材料にもまだ多くの可能性が秘められていることを知っていただければ幸甚です. (特集担当委員:中村忠司)
生井 飛鳥・吉清まりえ・大越 慎一
イプシロン型‐酸化鉄(ε-Fe2O3)は,筆者らにより初めて単相合成され,金属酸化物最大の保磁力や,超高周波ミリ波吸収特性を示すことが見出され,磁気記録媒体やミリ波吸収材料としての応用展開が期待されている.本稿では,このイプシロン型‐酸化鉄の合成法,結晶構造,磁気特性,電磁波吸収特性について紹介する.
髙田 潤
鉄酸化細菌が常温地下水中で作るアモルファス構造ナノ粒子からなる酸化鉄鞘状材料について,ユニークな物理的・化学的特徴といくつかの驚きの高機能,さらには不思議な鞘形成プロセスを紹介する.
今井 宏明・八木田直樹・緒明 佑哉
キレート剤を含む二価鉄イオンの水溶液系を用いて,多様な酸化鉄の合成が可能である.鉄酸化細菌を模倣した本プロセスによって得られた酸化鉄は,リチウムイオン電池電極活物質・吸着材・触媒等への応用が期待される.
喜多 英治・柳原 英人・新関 智彦・鈴木 和也・井上順一郎・壬生 攻・田中 雅章・伊藤 博介
レアメタルを含まないスピネル型酸化物強磁性の電子材料への応用を目的に,スパッタ法による高品位な薄膜成長を行った.鉄酸化物においては,マグネタイト(Fe3O4)とマグヘマイト(γ-Fe2O3)を,酸素流量を制御することにより作り分ける事に成功した.MgO基板上へ成膜したCoフェライト薄膜ではバルクと同等の磁化を持ち,10 Merg/cm3以上の垂直磁気異方性を有することを明らかにした.薄膜で得られた一軸磁気異方性はバルクには存在しない特性で,基板との不整合による格子歪みを原因として現象論的に解釈できた.
荒川 裕則
資源的に豊富で安価な酸化鉄(α-Fe2O3)を光電極触媒とした太陽光による水分解水素製造の研究開発の現状について紹介した.α-Fe2O3光電極触媒と色素増感太陽電池を組み合わせたタンデムセルによる無バイアス太陽光水分解についても紹介した.
関 宗俊・田畑 仁
機能性酸化鉄薄膜に関する筆者らの研究成果の中から,結晶方向制御とバンドエンジニアリングによる光半導体電極α-Fe2O3の光電特性の向上と,室温ハーフメタル材料であるFe3O4の薄膜形成と原子価制御によるp型化について紹介する.
森川 健志・荒井 健男
α-Fe2O3 (hematite)にNをドーピングした光電極が光カソード応答を示し,p型半導体となることを明らかにした.またカチオンZnとアニオンNを共ドーピングすることにより,さらに光応答電流を向上させることに成功した.
柳田さやか・亀島 欣一・磯部 敏宏・中島 章・岡田 清
シュウ酸水溶液に酸化鉄や水酸化鉄を加えると,一部が溶解してシュウ酸鉄錯イオンが形成し,紫外光や可視光照射により水酸基ラジカルが形成され,水中の有機物を効果的に光分解できる.その機構や影響因子などを説明した.
鈴木賢一郎・長井 康貴
鋳型剤を用いた自己組織化法により合成した均一なメソ孔を有する2-ラインフェリハイドライトは大気中オゾンに対して従来の酸化鉄系材料に比べ優れた吸着・触媒能を示した.上記多孔体の構造,浄化能発現要因などを説明する.
岩﨑 智宏
本稿では,環境やバイオの分野で利用が拡大している超常磁性マグネタイトナノ粒子を,粒子径と凝集を制御するための分散剤を用いることなく,穏和な条件で簡単に作製できる新規合成法を概説するとともに,その応用例を紹介する.
林 幸壱朗
本稿では, MRI造影剤および磁気ハイパーサーミア用発熱体に適した磁性ナノ粒子の合成法および特性について概説する. さらに, 磁性ナノ粒子の診断と治療を融合する次世代医療技術「セラノスティクス」への応用例を紹介する.
新見 秀明・三原賢二良・岸本 敦司・西郷 有民
PTCサーミスタの低抵抗化は長年の課題である.今回,還元焼成にも耐えるPTCセラミック材料の開発,および,超微粒化技術を確立することで,積層PTCサーミスタの実用化に成功した.これにより,室温抵抗を1/100と飛躍的に低抵抗化することができた.
武内 浩一
今回の功績賞の対象となった「陶磁器及び窯業原料に関する研究と教育指導」に関して,筆者が取り組んできた陶磁器に関する科学的研究の進歩と,その成果を技術支援に応用した例について紹介する.
袖山 研一
岡本 晃一
藤田 晃司・村井 俊介