田中 順三
有史以来,セラミックスは人の生活に密着している材料であり,粘土を用いて成形,これを焼くことで縄文式土器や弥生式土器が生まれました.その後,生活様式の向上などに伴うニーズに対応して焼成温度や材質を変え,須恵器,陶器,磁器へと進展し,この間,さまざまな技術,技法が生み出され,より高度な製品として提供されてきました.また,戦国時代に成立した茶道などにより,器や調理器具から鑑賞や愛蔵を目的とした芸術作品としての要素も加わったことで,さらに多くの技術が生み出されました.その後,20世紀に入り,製造技術が飛躍的に進歩し,陶磁器製造で生み出された技術は製品精度の高い量産化を可能とし,各種材料が持つ特性を活用すべく,原料の成分を制御し高純度化が図られたファインセラミックスが生み出され,現在,エレクトロニクス,構造材料,生体材料など幅広い分野に適用されています.本特集では,これら陶磁器製造技術や伝統工芸の技術から派生し,現在のファインセラミックス技術,先端技術につながる分野や内容について紹介し,セラミックスの発展と今後の可能性を探り,併せて陶磁器,陶芸分野に生かされる先端技術についても紹介し,陶磁器と先端セラミックスの対比や融合技術からセラミックスの新たな可能性を探るものとします. (特集担当:大類姫子(NTT環境エネルギー研究所),尾畑成造(岐阜県セラミックス研究所))
金野 正幸
ファインセラミックスは,日本古来の陶磁器を中心とした伝統的セラミックスの技術を基盤として,現代の産業技術のニーズに合わせ,高度発展させたものである.セラミックス技術の継承・発展について概説する.
道家 達將・水谷 惟恭
日本の陶芸・セラミックスを国際的レベルに発展させる基礎をつくるもとになったドイツ人Dr.ワグネル(Gottfried Wagener 1831~1892)の来日時から,現在の先端セラミックスに至る歴史について述べる.
角縁 進・渡 孝則
古唐津焼陶片について,地質学の研究で一般におこなわれる手法を用いて検討を行った.まずプレパラートを作成・観察し,含まれる鉱物と組織を観察し,釉薬を取り除いた部分を粉末にし,波長分散型蛍光X線分析装置で各種の化学組成を求めた.その結果,古唐津焼の化学組成は窯跡ごとに異なっており,窯ごとに異なった原料を使用したと考えられる.またその原料は窯の存在する表層地質を反映しており,窯の存在する場所で原料を調達した物と考えられる.
勝木 宏昭・川原 昭彦
1616年頃に有田で白磁が日本で初めて製造されて約400年が経過する.江戸時代の白色陶土,青磁,色絵磁器の開発に有田陶工の匠の技が凝縮している.やきもの作りの遺伝子が現在の有田のファインセラミックスの製造に継承されている.有田焼の発展の経緯と現在のファインセラミックス産業の状況を紹介する.
田村 哲
筆者の居る愛知県は我が国でも陶業のメッカであり,1200年以上の歴史がある.陶磁美術館にある江戸時代に焼かれた復元薪窯を用いて,当時の方法をできる限り再現する事で古き良き伝統技法を習得し,化学的に分析した結果を報告するものである.
山口 典男・小田 陽一・池田利喜夫
本稿ではこれまでの遠赤外線技術として,石灰釉を基本とした長石析出型の高放射釉薬について紹介し,先端技術として,熱を遠赤外線として放出する性質に着目した放熱部材の開発(アルミニウムの表面改質)について紹介する.
毛利 護
九谷焼が生まれた石川県の地で,ある意味必然的に洋食器製造が始まり,洋食器の次の事業としてエレクトロニクス用セラミックが選択された.セラミック基板の技術開発で陶磁器の技術が役立った事例を具体的にあげて説明させていただく.
亀山 哲也
陶磁器の代表的産地であり,陶磁器およびセラミックスに関連した研究開発が盛んである岐阜県東濃地域において,これまでの陶磁器およびセラミックス製品に“環境調和”という新たな価値を付加した「環境調和型セラミックス新産業」の創出を目指して取り組んだ内容について,成果事例とともに紹介する.
高橋 洋祐
食器で培ってきた技術を,燃料電池や太陽電池など,新エネルギー分野に展開した開発を行っており,紹介を行う.
稲田 博文・岡崎 友紀・高石 大吾・田口 肇・橋田 章三・佐藤 昌利・横山 直範
京焼・清水焼における伝統と先端技術の融合成果として,大型極薄陶板の開発および高彩色ベンガラを用いた無鉛上絵具の製品化について述べる.また,当研究所のルーツでもある京都市陶磁器試験所の歴史と成果について概説する
稲垣 順一
腐食や金属臭耐性の面でより優れるチタン網茶漉しが注目されている.本稿はステンレス代替のチタン網を急須に適用した事例について説明する.
杉山 豊彦
30数万点の釉薬テストピースを整理してデータベースを構築した.データベースは産業界や新しい研究開発に利用されている.データベースの内容と応用例,今後の展開と改良について考察する.
岩本 雄二
田部勢津久
伊藤 真樹・チェー チョンヘー