岡田 清
鈴木 弘茂
日本には9 つと多くの放射光施設があり,今日までの計測・分析技術の発展にともない,物質科学や材料開発における基盤ツールとして,放射光を専門としない研究者でも利用できる機会が増えてきています.放射光はX線から紫外線,さらには赤外線まで幅広い波長をもつ白色光でありますが,それゆえに,どの波長の光をいかに利用すると,どのような結果を得ることができるか,その応用例を知ることが重要と考えられます.そこで放射光を利用するうえで,その第一歩を踏み出すバリアを下げ,研究・開発への役立てに繋がる事を期待し,セラミックス研究に関連した利用例をいくつか紹介することを企画しました. (特集担当:宮川 仁 (独)物質・材料研究機構)
尾嶋 正治
高輝度放射光を用いた酸化物薄膜,酸化物デバイス界面の電子状態解析,これに基づいたデバイスメカニズム解明,そして特性向上に結びついた例を解説する.放射光が拓きつつある新しいナノ領域の物質科学について展望する.
松井久仁雄
放射光X線と新たに開発したBe窓を有する小型セルを用いて,建築材料などに利用されているトバモライト(5CaO・6SiO2・5H2O)の水熱下での生成過程をin situ XRDで解析した.非晶質ケイ酸カルシウム水和物などの中間生成物や不純物の役割などが明らかになったのでこれを解説する.
上杉健太朗
金属やセラミックス材料を3次元的に評価可能なツールとして,放射光X線CT法の原理と装置を紹介した.装置は近年の進歩も含めている.また,アルミ合金を例とした測定および簡単な解析例を示した.
長井 康貴
自動車用排ガス浄化触媒に使用される貴金属の低減・代替を目指した最近の研究成果について報告する.本研究では各種XAFS法を用いて,Ptナノ粒子の粒成長抑制機構ならびにPtの再分散現象,および卑金属であるCu触媒の活性発現機構を解析した.
宇尾 基弘
生体試料は多様な物質を含み,分析対象元素が希薄であることが多く,その他の元素の妨害を受けやすい.放射光を用いたXRFやXAFSにより微量元素を高感度に検出し,状態分析することが可能になる.本稿では生物試料中の微量元素や微小異物の分析に放射光を応用した例について紹介する.
櫻井 吉晴
100keV以上の放射光X線を用いたコンプトン散乱分析は,リチウムイオン実電池内部の構造や組成の変化をIn-situ, Operando条件下で計測できる.例として,コイン電池製品(CR2032)の測定結果を示し,将来展望として,大型蓄電池への展開と量子電気化学分析への発展について述べる.
上岡 義弘・浦岡 行治
酸化物半導体は次世代ディスプレイの薄膜トランジスタ材料として注目されている.本研究では,入射エネルギーが可変という放射光の特長を生かした測定を行い,酸化物半導体に対する熱処理の影響を解析した.
松波 雅治
近年の放射光を用いた光電子分光と赤外分光における実験技術の発展は,強相関電子系の研究に新しい展開をもたらしている.本稿では,これらの先端固体分光を複合的に利用した強相関電子構造の多角的観察について述べる.
神田 一浩
水素化DLC膜に軟X線照射を行うことで,密度・硬度・光学定数などを制御することに成功し,このような物性変化が,軟X線照射によるDLC膜からの水素の脱離より起きることを明らかにした.
岡田 清
森田 孝治