牛込 進
蛍光体は,主に照明,テレビなどのディスプレイ,医療診断技術,センサー,標識などに使われていますが,近年,合成技術とともに新素材の提案やナノ粒子化技術によって,エネルギー,医療材料,セキュリティなど社会状況を反映した新たなニーズも考えられています.また,レアメタルの資源問題についても緊急の課題となっています.このように,蛍光体への新たなるニーズが現在と将来の課題として,多様かつダイナミックに変化していることから,本特集として取り上げました. (特集担当委員:井上幸司)
中西洋一郎
ノーベル物理学賞の受賞によってLED照明がますます注目される中,LED照明に用いられている蛍光体もその重要性を増している.本稿では,本来ディスプレイや蛍光灯などに用いられてきた蛍光体の変遷と現状および将来への見通しについて紹介する.
戸田 健司・金善旭・石垣 雅・亀井真之介・長谷川拓哉・上松 和義・佐藤 峰夫
今後,日本でも蛍光体材料一般について産学協同でプロジェクトを行うといった積極的な取り組みを行い,特に多様な発光特性に対応できる希土類蛍光体についてアカデミックなバックグラウンドに基づく開発を推進していく必要がある.
藤原 忍
蛍光体をナノサイズにしたり薄膜化したりすると,発光以外の光学特性が顕著に現れるようになる.本稿では,蛍光体に種々の光学機能を付与した新たな概念の発光材料について,その合成方法,評価方法,応用例について述べる.
赤井 智子
蛍光体に使用される希土類の使用量低減技術についての基本的な考え方や,NEDO希少金属代替材料開発プロジェクトで開発された成果を中心に最近の蛍光体の希土類低減技術の研究開発動向について概説した.
松嶋 雄太
希土類フリー蛍光体に関する近年の研究の成果および将来的に期待される青色LED用蛍光体としての可能性について紹介する.バナジン酸塩化合物蛍光体における発光色の多様性や,Mn4+やFe3+系赤色蛍光体の応用について取りあげるとともに,銀担持ゼオライト蛍光体について言及する.
大観 光徳・石垣 雅・大倉 央
無機蛍光体の合成用に設計・開発したマイクロリアクター装置の構成や特徴を紹介する.YVO4:Eu,Biナノ粒子蛍光体の合成を例として,特に合成時のpH値に関し留意すべきポイントを解説する.
國本 崇・本間 徹生
蛍光体の発光特性の理解には,発光中心と周辺環境の情報が必要でありXAFSはこれに適した分析ツールである.X線吸収とその後の緩和過程を通じて検出したXAFSの解析結果と蛍光体の発光特性との関係について事例を紹介する.
岡本 慎二
紫外線はその光の波長と光の強さに応じてさまざまな効果をもたらすことが知られている.そのような紫外線の効能を概説するとともに,その紫外線を発する蛍光体(UV蛍光体)開発の現状を励起方式ごとにまとめる.
井上 幸司・橋本 忍・岩田 晋弥・森 悟史・大屋 紀之・谷村 吉也・辻 斉
電子線励起型フラットパネルディスプレイとして,電解放射型ディスプレイ(FED)等のディスプレイが期待されている.その蛍光体は従来のCRTと同様の材料が適用可能だが,駆動電圧および電流密度が高いことから耐久性が求められる.本稿では,耐久性に優れる酸化物系を中心とした蛍光体の開発事例を紹介する.
上田 純平・田部勢津久
Ce3+添加ガーネット蛍光体の光学・光電子物性評価から電子構造を明らかにし,それを利用した材料設計により青色蓄光可能な高輝度長残光蛍光体の開発に成功した.本稿では,その電子構造設計指針と開発経緯を紹介する.
磯部 徹彦
本稿では,波長変換材料を太陽電池に実装した最近の研究報告,太陽電池用の波長変換材料として有望な無機物蛍光体の開発動向について解説する.
山家 光男・長谷川和男
太陽光励起レーザー用 Nd:Cr:YAG セラミックス蛍光体の賦活イオンNdと増感イオンCrの最適濃度の決定,CrからNdへのエネルギー移動メカニズムを中心に蛍光体の光学特性およびレーザー発振特性について議論する.
曽我 公平
セラミックス蛍光体を応用したバイオメディカルイメージングは,ナノ粒子を用いた近赤外蛍光バイオイメージングに展開しつつある.本稿では細胞,小動物のイメージングからナノ温度計に至るこれら応用を概説する.
神 哲郎
希土類含有蛍光体の生体応用について,モルフォロジー(中空構造)制御された当該材料の合成,蛍光特性,表面改質による細胞表面への付着,放射線による細胞毒性の発現について解説する.
川下 将一