谷 俊彦
高等専門学校(以下 高専)は,約50年前に産業界の強い要望のもと5年間で大学相当の工学・技術系の専門教育を施すことによって実践的技術者を養成することを目的にした教育機関として設立され,社会的にも高い評価を得てきました.最近ではこの高専システムが産業の発展に大きく貢献できる制度であるということが海外でも広く認められてきており,モンゴルやメキシコ等では日本の高専の教育システムを導入する例も増えています.一方,15歳年齢の減少と大学進学率の増加から,高専においても更なる教育を行うべく,本科5年のあとさらに2年間の教育を行う専攻科が設置されるようになり,従来は2年の専攻科修了時に大学評価・学位授与機構の審査を経て学士の学位が授与されていましたが,本年度より多くの学校で特例適用認定が認められ,各校の審査で学士が学生に授与されるようになりました.このような状況を踏まえ,国立高専を取りまとめている国立高等専門学校機構では,高専の研究力の強化を推進していく方針を打ち出しています.本特集ではこのような背景のもと,今後より重要性が増すと考えられる高専発の開発研究について,セラミックスに関連の深い分野を中心に紹介を行います. (特集担当委員:内山 潔)
紀 聖治
国立高専は全国各地に51校配置され,主に工学系の分野で約4000人の教員が研究を推進している.各地にあるというスケールメリットを活かし,全国的な課題のみならず,地域的な課題の解決に積極的に取り組んでいる.
小西 智也
希土類添加セラミックスナノ蛍光体のアップコンバージョン発光を利用した蛍光指紋認証印刷,および蛍光顔料の量産化に向けた噴霧乾燥・コアシェル法によるLaOCl:Er3+の合成方法と表面修飾方法について概説する.
中山 享
燃料電池の中で高い発電効率を有する固体酸化物型燃料電池(SOFC)の電解質材料に適した高いイオン伝導性を示す希土類シリケート酸化物イオン伝導体の研究開発について述べる.
田中 博美・吉川 英樹・松井 良夫・岸田 悟
Bi系高温超伝導ウィスカーにおいて元素置換によるナノ構造欠陥の導入を試みた.その結果,ナノ構造欠陥が磁束を捕捉するピンニングセンターとして働き,臨界電流密度を改善することがわかった.
Using synchrotron radiation X-ray photoemission spectroscopy and high-resolution transmission electron microscopy, we have studied Ca-rich Bi-based superconducting whiskers grown by an Al2O3-seeded glassy quenched platelet method. The Ca-rich Bi-based superconducting whiskers show a high critical current density of 2×105A/cm2 at 40K in self-field. We found that excess Ca2+ ions substitute for the Sr2+ sites and cause pillar-shape nano crystalline domains with shorter-period modulation embedded in the base crystalline. The embedded nano crystalline domains can result in structural distorted defects which work as strong pinning center.
長谷川 章・本間 哲雄
CVD法によってシリカ繊維表面に酸化チタンを固定化した光触媒フィルター(TAS)を合成した.TASは,高い光触媒活性と低い圧力損失を示す.また,超臨界乾燥法による合成も検討し,機械的強度を持つ半透明酸化チタンエアロゲルの合成に成功した.
松嶋 茂憲・小畑 賢次
本稿では,高比表面積を持つビスマス系およびフェライト系複合酸化物粉体を用いた可視光応答性光触媒やガスセンサ開発の事例を紹介するとともに,光触媒研究における第一原理計算法の重要性を述べる.
奥山 哲也
省エネルギー化の一つとして熱電エネルギー変換技術がある.その基盤を支えるものは金属,セラミックスの各利点特性を併せ持つ物質である.本稿ではハーフホイスラー系TiNiFeSbを取り上げ,その研究開発状況の一部を紹介する.
山内 紀子
両親媒性であるジエチルアミン中において,マグネタイト(Fe3O4)ナノ粒子の分散安定性を維持したまま,粒子表面に疎水性の有機シリカシェルを形成した.さらに,酸によってマグネタイトコアをイオン化して溶出させることにより,疎水性の中空有機シリカナノ粒子を作製した.
和田 憲幸
Mnイオンを含有したガラスやセラミックスの蛍光特性を中心に,鈴鹿高専材料工学科の学生と行った研究を,組成制御,欠損欠陥制御,結晶析出制御として分類して説明するとともに,今後の研究について紹介する.
黒木雄一郎・岡元智一郎・髙田 雅介
筆者らのグループでは,新規な青紫色蛍光体(銅添加ヒドロニウムアルナイト)を見いだした.この蛍光体は,結晶構造中に水を含む点で極めて興味深い.本稿ではこの新規な蛍光体の合成および発光特性とともに,発光メカニズムの解明に向けた最近の研究結果について紹介する.
犬飼 利嗣
本研究では,フライアッシュの活性度を改善するために,その手法に関する実験的な検討を行った.その結果,NaOHの0.1mol水溶液を練混ぜ水として用いCa(OH)2を外割で0.10%添加することで,安定的な活性度の改善効果が得られることが明らかとなった.
藤重 昌生・小島 昭
廃棄物中のアスベストの非繊維化(完全な分解)について検討し,分解と再利用について紹介する.また,公共施設内のアスベストは完全除去されたが,近年主流の封じ込め法によって処理したアスベストの廃棄物処理についての検討と再利用について経過を紹介する.
菊池 正紀