山本 茂
これまで生活をより豊かに,より便利にするため,陶磁器製品は生み出され活 用されてきました.そしてさまざまな生活様式,環境の変化等に伴うニーズに対 応するために焼成温度や材質を変え,進展してきました.そうした日本の陶磁器 製品はその品質,精度の面から世界的に認められるものであり,これまで海外へ 積極的に輸出されてきました.円高等による影響でその量は減少したものの,そ の価値はいまだ衰えるものではありません.そこで今回は,その陶磁器における 近年の研究開発の取り組みや地域創生を目的とした産学官連携,海外との連携に よる今後の陶磁器の在り方等を特集として紹介します. (特集担当委員:井上幸司・梅田隼史,編集協力:尾畑成造(岐阜県セラミックス研究所))
尾畑 成造
陶磁器産業は最盛期の1/4とも言われているが,この産業を支援する取り組みが大学や試験研究機関を中心に行われている.そこで今回陶磁器産業を支援してきた取り組みについて事例をあげつつ,趣旨説明を行う.
北條 純一
陶磁器技術を基にセラミックス技術が発展してきた.いずれも粉末の調整,成形,焼結が基本プロセスである.陶磁器の歴史的発展,その科学的意味からセラミックス技術革新に果たしてきた役割と今後について論じてみたい.
渡 孝則
佐賀大学が“地(知)の拠点大学”として取り組んでいる肥前陶磁器産業支援について,有田地域との交流事業,韓国およびタイ王国との交流成果,肥前セラミック研究所,により紹介した.
一ノ瀬弘道
創業400年を迎えた有田焼産業の次の100年のため,佐賀県は「有田焼創業400年事業」を推進中である.その中で佐賀県窯業技術センターでは新原料新プロセッシングの開発や企業,大学,海外との連携強化に取り組んでいる.
松尾 英之・海野 雅司
ラマン分光法は,非破壊・非接触で実施できる分析法で物質の構造を知ることができる.この分析法を有田焼評価に活用するために,さまざまな試験体のラマン分光分析を実施した.
武部 真木・堀木真美子
本稿では洋食器の皿,近代陶磁器の出土資料を紹介.遺物として報告される機会が少なく,また特徴的な文様パターンやマーク(裏印)の情報を除いては詳細が示されてこなかった近代資料である.形態や表面観察のほか,主に青色の釉薬成分の分析を行った.産地や製造技術(時期)にせまる手掛かりについて模索する.
東 博純・竹田 美和
あいちシンクロトロン光施設で実施したルス,織部,赤津七釉,呉須等の釉薬の分析例を紹介.蛍光X線分析やXAFS法により釉薬の組成や化学状態を測定.赤津七釉では鉄の化学状態に注目し,呉須については,組成を調べた.
太田 敏孝・日比野 寿・安達 信泰・羽田 政明・青山 双渓
桃山陶として知られる瀬戸黒について,大萱牟田洞窯や尼ヶ根窯等の美濃古窯跡で採集した陶片と荒川豊蔵の瀬戸黒および青山双渓の再現した瀬戸黒について,比較分析評価した.
蒲地 伸明
磁器化後,軟化変形量が増加しない特殊な焼結性状を持つ磁器の特性,焼結機構,製品化事例について紹介する.
小林 雄一・磯山 博文
従来の磁器の緻密化機構について検討し,低温で焼結緻密化させるためのさまざまな手法について紹介する.
吉田 英樹・武内 浩一
日本の窯業原料の変遷を概観し,最近供給が危ぶまれている可塑性原料の状況について紹介する.また,ロクロ成形等可塑成形に適した坏土を調製するために開発した,配合計算における可塑性値の数値化の試みについても紹介する.
杉山 豊彦
産技連セラミックス分科会により構築された窯業原料データベースは一般に流通する国内窯業原料を網羅し,統一した測定方法による原料データを掲載して陶磁器産業界に信頼性の高い基盤情報を提供している.
加藤 正樹・加藤 奈央・岩月 優
最近のデジタル計測・加工技術の陶磁器への応用に関する取り組みを紹介する.
副島 潔
有田焼の主原料である天草陶石ベースの陶磁器粉末原料を利用し,粉末積層造形方式の3Dプリンターで3Dデータから直接成形体を出力し,焼成することにより,陶磁器を得る技術を開発した.
海老原誠治
対象を特定した利用,例えば高齢者等食事動作に制限のある方向けにおいて,食器の形状やサイズ等の設計に有用なアクセシブルデザイン(食等,目的とする活動が達成(アクセスできる))について.
片桐 清文