萬代 治文
これまでの有機-無機ハイブリッド研究は,炭素,水素,酸素などに加えて,ケイ素など限られた元素を用いて行われてきました.これに対し近年,多様な元素群からなる構造単位(元素ブロック)を設計し,これを有機化学的手法で連結して重合し,さらに階層構造を制御することで,従来の有機-無機ハイブリッドを超える新概念としての 「元素ブロック高分子材料」を創出しようとする研究が,科研費の大型プロジェクト:新学術領域研究「元素ブロック高分子材料の創出」(平成24~28年度)において行われています.すでに従来材料を凌駕する新機能・高機能を発揮するさまざまな元素ブロック高分子材料が創出され,各種メディアでもその成果が取り上げられるなど,社会・産業界からの期待も高まっており,5年間の本プロジェクトの最終年度に当たり,領域の研究成果を体系的にまとめて特集します. (元素ブロック材料研究体代表 菅原義之)
中條 善樹・田中 一生
無機元素を含む機能の構造単位を「元素ブロック」と呼ぶ.この元素ブロックを合成・高分子化・集積することで,新奇の材料の創出が期待できる.これらの「元素ブロック高分子材料」の考え方を説明する.
田中 一義・笛野 博之
カゴ状構造を持つ無機元素ブロック分子のモノアニオンについての理論的解析を行い,電子化物のソフトマテリアル化の可能性に向けての予測を行った.カゴの内部に余剰電子が閉じ込められた特殊な形態を取ることも明らかにした.
田中 一生・中條 善樹
ホウ素クラスターであるカルボランを含む発光材料について,現在までの進捗について概説する.環境や外部からの刺激により発光色や強度を変化させる固体発光材料など,特異な機能について詳述する.
植村 一広
ハロゲンや有機物などで架橋された一次元鎖錯体は多数報告されているが,直接の金属結合で伸長化しているものは比較的少ない.本稿では,異種金属結合を用いた金属の一次元鎖化法について,その考え方と具体例を解説する.
長谷川 靖哉
希土類イオンから構成されるナノサイズの半導体「希土類ナノ結晶」の合成法と光磁気機能を紹介する.さらに,希土類ナノ結晶を集積した組織体についても解説を行う.
松下 伸広・岸 哲生・矢野 哲司・牧之瀬佑旗・谷口 貴章
水熱合成法による機能性ナノ粒子と表面の界面活性剤からなる無機元素ブロックのうち,触媒応用も期待できるCeO2,蛍光発光を示す希土類イオン置換CePO4,磁性をもつFe3O4について,その作製法ならびに諸特性について解説している.
中 建介
主としてT8と称されるかご型オクタシルセスキオキサン(RSiO1.5)8を基本骨格とした元素ブロックについて,筆者らの研究例を中心に紹介し,次世代の元素ブロック高分子材料として何が期待できるかを概説する.
郡司 天博
元素ブロックであるかご型シルセスキオキサンを用い,ヒドロシリル基の酸化と縮合を基本とするゾル-ゲル反応によりPOSSが連結した高分子を合成した.水やシランジオールとPOSSの反応により全シロキサン型高分子を得た.
山本 一樹・大下 浄治
構造設計された有機架橋ケイ素アルコキシド型元素ブロックを前駆体として,ゾル-ゲル法により作製されるオルガノシリカ連続膜とその気体分離・逆浸透膜としての性質について調査した.
郭 素芳・松川 公洋・大久保達也・黒田 一幸・下嶋 敦
分子設計された有機シランの自己集合やかご型シロキサンの有機架橋による光応答性元素ブロック高分子の合成と紫外光/可視光照射による可逆的なナノ構造変化およびマクロ形態変化について紹介する.
井戸田直和・菅原 義之
セラミックスや金属から構成される無機ナノ構造は,量子サイズ効果 に基づくユニークな物性を示すことから幅広い分野で注目を集めている.本稿では,無機ナノ構造を利用した元素ブロックの作製法を概説し,それらの応用について紹介する.
新堀 佳紀・藏重 亘・根岸 雄一
チオラート保護金クラスターを,構成原子数毎,配位子の組み合わせ毎,位置異性体毎に,高分解能で分離する方法の確立に成功した.こうした精密合成されたクラスターは,水分解半導体光触媒の高活性化にも貢献しうることが明らかになった.
髙田 誠・内藤 裕義
元素ブロック高分子を発光層に用いた逆構造発光ダイオードの作製,および,動作機構について述べた.逆構造発光ダイオードに特徴的な動作機構である金属酸化物陰極からの電子注入現象を明らかにした.
菊池 正紀