徳植 桂治
優れた吸着能,分離能を有するセラミックス多孔体は,排ガスフィルターや触媒担体など,環境浄化材料として幅広く用いられてきました.2010年10月号のセラミックス多孔体の特集では,そうした環境浄化材料を中心とした工業製品への利用や,新しい多孔体の製造プロセスについて紹介しました.近年では,東日本大震災後の高濃度汚染水処理にセラミックス多孔体が非常に有用であると注目され,さらに,従来の吸着や分離を目的とした利用だけでなく,光学材料や電子材料などへの展開も加速しています.本特集では,ナノサイズの空間をもつセラミックス多孔体に着目し,ナノ空間を「作る」こと,「使う」ことに関する最新の研究,応用例を紹介します. (特集担当委員:福岡 歩)
黒田 義之・山本 瑛祐・下嶋 敦・和田 宏明・黒田 一幸
溶媒に高分散するコロイド状メソポーラスシリカナノ粒子やシリカナノ粒子をビルディングブロックとして用い,シリカメソ多孔体の階層構造やヤヌス構造,超格子構造を制御する最近の研究を紹介する.
中島 清隆・福岡 淳
冷蔵庫に搭載されているプラチナ触媒(メソポーラスシリカに担持したナノサイズの白金微粒子)の,低温エチレン酸化特性について概説する.
河村 剛・武藤 浩行・松田 厚範
シリカやチタニアのセラミックスナノ多孔体と,金や銀のナノ粒子を複合化し,そのナノ複合構造に基づいて発現するさまざまな機能を調査した研究を紹介する.すべての複合体は液相法により合成され,その機能は偏光子や光触媒,太陽電池など多岐に応用できるものである.
鳴瀧 彩絵
両親媒性高分子の存在下,シリカナノ粒子が液相で自己集合してチェイン,リング,ベシクルなどの多様な組織体を形成する.粒子の分散と凝集のはざまの状態として現れる秩序構造について解説する.
久保 優
5つの異なる一次粒子径を有する単分散シリカナノ粒子を噴霧乾燥することでナノ粒子集積体を合成した.噴霧乾燥することで一次粒子径が大きいと最密充填構造をとらず,空隙率の高い大きな細孔を有するナノ多孔体となった.
脇原 徹
粒径100nm以下のゼオライトナノ粒子をトップダウン法,すなわち粉砕操作と再結晶化操作を組み合わせた手法で調製することが可能である.このゼオライトナノ粒子の新しい調製手法について解説する.
松永 知佳・打越 哲郎・鈴木 達・目 義雄・松田 元秀
ゼオライトの磁気異方性を利用した配向したゼオライト種結晶層を用いて,それを緻密化することによりゼオライトの緻密配向膜作製する手法を紹介する.
松倉 実
福島第一原子力発電所におけるアクシデントで利用されたゼオライトを主体とする吸着剤の開発と核種を吸着した後の安定固化法の研究について紹介.さらにカミオカンデでの利用といった物理化学分野での利用についても説明.
稲田 幹
多孔質カーボンの一例として,水熱炭化法により作製したカーボンスフィアについて紹介する.生成メカニズムを提案するとともに,その細孔構造とキャパシタ特性について実際のデータを用いて簡単に説明する.
干川 康人・ Alberto Castro-Muñiz・京谷 隆
本稿では構成材質が絶縁体であるセラミックスナノ多孔体(メソポーラスシリカとアルミニウム陽極酸化皮膜)を化学気相蒸着(CVD)法によって炭素被覆する手法とその電気化学的分野への応用について紹介する.
柘植 智仁