岡田 繁
近年のナノテクノロジーの進歩は,医療現場における診断精度の向上や治療効果の増 強をもたらし,一億総活躍社会の実現の一端を担っています.血管内さらには血管壁・細胞膜をも通過できる程に小さなセラミックスナノ粒子(今回は,大きさ 1μm 以下のセラミックス粒子)は,生体内の目的の場所に薬剤を送達したり,細胞や菌等に直接作用して機能を制御したり,それらに特異的な生体分子を認識して可視化・定量化する等,従来のバルクセラミックスやマイクロ・マクロ粉体では達成できないバイオメディカル機能を発現できることから,今後ますますの発展が期待される技術分野のひとつと言えます.そこで本特集では,診断や治療に役立つセラミックスナノ粒子の設計・合成技術とその応用について最新の研究動向を紹介します. (特集担当委員:竹内あかり・大矢根綾子)
曽我 公平
旧来セラミックスは人工歯骨として,またその微粒子は焼結促進に応用されてきた.近年では合成技術の発達とともにセラミックスナノ粒子がバイオメディカル応用において新たな展開を見せつつある.本稿ではその現状と展望を概説する.
中村 挙子
ナノダイヤモンド粒子表面へ簡便な操作で化学修飾およびガドリニウムイオン担持を行い,核磁気共鳴画像(MRI)用新規造影剤の作製プロセスについて検討するとともに,MRI撮像結果により新規造影剤としての適用可能性について報告する.
多賀谷基博
筆者らのナノバイオセラミックスに関する研究において,シリカ,チタニア,アパタイトなどを母体材料として光機能物質を複合化して創製されるナノ粒子について概説し,ナノ粒子が細胞へ取込されて可視化する研究について紹介する.
松山 想・生駒 俊之
グラフェン特有の性質を保持した3Dグラフェンは,新しい材料である.3D酸化グラフェンは表面官能基が多く,がん細胞が産出する有機揮発性化合物(VOC)を室温で吸着するため,電流値変化から極低濃度のVOC検出が期待される.
林 幸壱朗
蛍光イメージガイド下で光線力学療法-フォトサーマルセラピー-化学療法を同時に達成する内因性と外因性の二種刺激に応答して分解する中空有機-無機ハイブリッドナノ粒子のone-pot合成について述べる.
古薗 勉・福本 真也
生体吸収性高分子をコア,ハイドロキシアパタイトナノ粒子をシェルとするコアシェル微粒子を調製した.この微粒子を重症下肢虚血に対する血管再生療法(細胞移植)の細胞足場として用い,救肢増幅効果を実証した.
後藤 光昭・関 禎子・赤池 敏宏
炭酸アパタイトナノ粒子は,基本的に骨材料であり生体内に存在する無機材料のみで構成され,生体適合性材料そのものである.しかも酸性条件下で迅速に溶解し,効率の良い遺伝子や核酸医薬の無修飾導入が可能である.現在,GDS,DDSへの応用を行っており,医療用ナノデバイスとしての第一級の性能を有しており,医療を革新する可能性について言及する.
伊藤 敦夫・王秀鵬・李霞・十河 友・辻 典子
がん免疫療法は,身体が元来持つ免疫系を利用し,免疫細胞ががん細胞のみを認識・破壊するよう活性化する治療法である.ある種のセラミック系ナノ粒子はがん免疫療法のアジュバント(免疫賦活剤)としての利用価値が高い.
小林 猛
磁性ナノ粒子をがん組織に集積させ,交番磁界を印可する温熱療法を開発した.この温熱療法によってがん組織だけが加温され,がん細胞特有の免疫活性が強く賦活された.動物実験の結果や第1相臨床研究の結果を紹介した.
三好 一富・渡辺 秀樹
簡易迅速診断薬の一つであるイムノクロマト診断薬への蛍光シリカナノ粒子の応用を紹介する.これによって,医療現場の強いニーズである簡易迅速性を保持したまま高感度化に成功したこと,その応用例について述べる.
近藤 隼・栃木 栄太・柴田 直哉・幾原 雄一
齋藤 紀子