小川 賢治
原子もしくはイオン間の相互作用の非調和性に由来する熱膨張は,物質の普遍的な性質です.そして,熱膨張は普遍的な性質であるがゆえに,例えばエンジンのような高温動作する精密機械や,わずかな位置ずれも許されない半導体産業など,さまざまな場面で問題となります.本特集では,熱膨張に由来する問題を解決すると期待される,温めると縮む負熱膨張材料の科学および負熱膨張/低熱膨張物質を用いた各種材料の熱膨張制御技術について紹介します. (特集担当委員:岡 研吾)
竹中 康司
相次ぐ新規材料の創出により負熱膨張に関する研究が目覚ましく進展し,熱膨張制御に対するパラダイムシフトをもたらしている.負熱膨張を示す材料群と負熱膨張の機構,それらを活用した複合材料について概観する.
東 正樹
ペロブスカイト型新物質BiNi1-xFexO3は,3価(6s2)と5価(6s0)の電荷の自由度を持つビスマスと,遷移金属であるニッケルの間の電荷移動により,既存材料の6倍もの負熱膨張を示す.エポキシ樹脂に分散させたゼロ熱膨張コンポジットと共に紹介する.
山田 幾也
四重ペロブスカイト鉄酸化物ACu3Fe4O12における熱膨張・構造変化と電子相転移の相関について紹介する.
鈴木 義和・中越 悠太
耐熱衝撃性・耐酸化性・耐食性に優れる低熱膨張セラミックスは,高温構造部材や精密機器部材として現代の産業に欠かせないものとなってきている.本稿ではMgTi2O5セラミックス多孔体を中心に最近の進捗状況を紹介する.
磯部 敏宏
Zr2WP2O12とZr2MoP2O12の合成方法,結晶構造,高温X線回折から求めた格子定数と熱膨張率,適切な焼結助剤と常圧焼結の条件,得られた焼結体の性質,ポリイミド/Zr2WP2O12・Zr2MoP2O12ハイブリッドフィルムの熱膨張率を纏めた.
伊藤 隆・岡本 康男・新島 聖治
ペタライト質およびコーディエライト質耐熱陶器は,低熱膨張性結晶の存在により、熱膨張が制御され,耐熱衝撃性を発現させている.これら低熱膨張性の耐熱陶器にかかわる技術の現状と最近の研究成果について紹介する.
在間 弘朗
負熱膨張物質であるタングステン酸ジルコニウムの合成から実際の応用に向けての展望について紹介する.
岸本 宏一
開発した低熱膨張ピッチ系炭素繊維C/Cコンポジットは回路基板等の電子部品の軽量化と低熱膨張による寸法安定性に貢献するとともに,高熱伝導性が求められる各種放熱部材用途に適応可能な素材としての役割が期待される.
小西 敏功