垣花 眞人
層状物質は,二次元のナノシートが積層した物質の総称であり,さまざまな組成が存在しています.古くから知られさまざまな用途で用いられている粘土鉱物に始まり,剥離したグラフェンが注目されているグラファイトまで,材料科学において層状物質は大きな役割を担っているといえます.層状物質は,層間に物質を取り込むことができる性質(インターカレーション)や剥離してナノシート化できる性質と,層自身の組成の性質を上手く組み合わせて利用することで設計された機能を創出してきました.未だに新規層状物質の合成や新機能が報告されており,更なる発展が期待できる分野と考えられます.本特集では,各研究領域で層状物質を利用した研究を行っている研究者の方々に最新の研究成果を紹介していただきます. (特集担当委員:朝倉裕介)
蛯名 武雄
ポリマー粘土コンポジット材料において,粘土を主成分とする膜(粘土膜)はフレキシブルでありながら耐熱性・ガスバリア性に優れている.本シーズ技術を用いて耐水性と高い耐熱性を持つ自立膜,プラスチックにガスバリア性や不燃性を付与するためのコーティング膜,さらに他材料との積層材の構成層等の応用が進んだ.ここでは,粘土膜の原料と成膜方法を概説し,さらに最近10年間の性能向上,機能付与,用途展開について紹介する.
窪田 宗弘
タンパク質の1種であるリゾチームの結晶化の際,フッ素化サポナイトを添加し,結晶化への影響を評価した.リゾチームの結晶核形成が促進,結晶化時間が短縮されるという興味深い結果を得ることができた.
鈴木 康孝・富永 亮・川俣 純
粘土鉱物の層間に取り込まれた分子に生じるコンフォメーションの変化を,圧力が作用しているという視点でとらえ,分子に作用する力を定量化してみた.粘土層間という場を用いることで、今後新しい分子化学が展開できると確信している.
藤村 卓也・笹井 亮・RAMAMURTHY Vaidhyanathan
イオン交換能を有する層状化合物はイオン交換反応によりその層間・表面にイオン性色素分子を高密度集積させるための”足場”として機能しうる.本稿ではこの足場(反応場)を利用した有機分子間での連続する光反応について述べる.
宮元 展義
無機ナノシートのコロイド分散液には興味深い性質や制御可能な階層構造が存在している.これらを理解し,制御し,利用するという新しい設計方針によって得られる,高分子や生体分子との複合材料等を紹介する.
中野 秀之・八百川律子
層状結晶CaX2(X=Si, Ge)内に成長する多層シリセンとゲルマネンの結晶構造を紹介する.両者の二次元結晶は,表面の電荷分布,あるいは界面との整合性により,理論予測できない構造に成長することを示した.
黒田 義之・村松 佳祐・黒田 一幸
三脚型配位子とブルーサイト型層状金属水酸化物の特異結合を利用することで,ナノ粒子,ナノシートといった形態制御や,表面官能基の制御をボトムアップ的に行うことができる.本稿では,それらの技術について網羅的に解説する.
忠永 清治
本稿では,LDHの水酸化物イオン伝導性や,固体電解質として用いたアルカリ形燃料電池および水の電気分解,金属-空気電池の電極触媒,電気化学的酸素分離に応用した例について紹介する.
伊田進太郎
層状化合物の剥離によって得られる二次元平面構造を持つナノシートは,光触媒の基体として注目されている.本稿では,このようなナノシートの特徴を活かした光触媒の研究例についていくつか紹介する.
望月 大・滝本 大裕・杉本 渉
筆者らが開発を進めてきた高い電子伝導性を有するRuO2やIrO2ナノシートのスーパーキャパシタや燃料電池や水電解用電極触媒への応用について概説する.また,金属RuやRu@Ptナノシートの合成法についても紹介する.
藪内 直明
さまざまな構造の異なる層状材料が存在することがわかった.得られた試料の結晶構造解析および電気化学特性について評価を行い,さらに,充放電反応機構を調べた結果を元に,実用的なナトリウムイオン蓄電池実現の可能性を議論する.
佐々木祐生・篠原 久典・北浦 良
電子顕微鏡を用いた高分解能なオペランド観察技術の一つとして,現在注目を集めている“グラフェン液体セル”について,筆者らの研究でわかってきたその特徴や高効率な作製法まで少し詳しく解説する.