稲垣 順一
かつて水溶液を用いたセラミックス合成プロセスは,「低環境負荷だが得られる材料は低機能」とされていました.そこで技術向上と発展を進めるため,日本セラミックス協会第18回秋季シンポジウム(2005年)において,水溶液プロセスを主題とした第1回の特定セッションが開催されました.その後,2007年12月には“水溶液科学に立脚したセラミックス合成プロセス”と題して Journal of the Ceramics Society of Japan 誌に,2009年8月号には“水溶液プロセス科学の新展開”と題してセラミックス誌に特集が組まれ,水溶液プロセスによる材料合成は順調な広がりをみせています.今では,水溶液プロセスは「低環境負荷でかつ得られる材料は高機能」として認識され,水溶液を用いるがゆえの微細構造や機能を有するセラミックスの合成が当たり前のように報告されています.本特集では,多様な発展を遂げた水溶液プロセスに焦点を当て,最新の成果を紹介するとともに,更なる深化に向けた課題を提起します. (特集担当委員:後藤知代,編集協力:小林 亮(東北大学)・内山弘章(関西大学)・長谷川丈二(九州大学))
鵜沼 英郎・垣花 眞人
水溶液を反応場とするセラミックス合成プロセス(水溶液プロセス)の歴史,近年関心を集めるに至った経緯,さらに今後望まれる発展のための方法と方向について,具体例を挙げつつ概説した.
今井 宏明
歯のエナメル質のようにナノロッドが一方向に配向して集積したバイオミネラルに注目し,水溶液中の核生成と結晶成長の制御による,リン酸カルシウム・炭酸カルシウム・酸化亜鉛のナノロッド配向集積体を合成する手法を検討するとともに,得られた集積体の特性について紹介する.
平野 正典
固相反応を用いると,合成には通常1000℃以上の加熱処理が必要となるような目的化合物を,低温で水溶液中において直接合成する例として,水熱法を用いた研究例がこれまで比較的少ない酸化物系の材料の場合(ナノサイズ微粒子,ナノ結晶等)について紹介する.
内山 弘章
金属塩と水のみから成る有機物フリーのシンプルな前駆溶液から酸化物薄膜を作製可能な新たな成膜手法として超低速ディップコーティングを提案する.
殷 澍・常 宏宏・朝倉 裕介・佐藤 次雄
アルコールーカルボン酸の混合溶媒を反応溶媒として用い,エステル化反応により水分子の放出を精密に制御されることによって,均一な粒子形態とサイズが制御された無機ナノ粒子の合成およびそれに関連する機能性発現について解説する.
徳留 靖明
エポキシド開環誘起アルキル化を利用したセラミックス合成は,エアロゲルにはじまり粒子や多孔体合成に至るまで幅広く利用されている.本稿では,このアルカリ化反応の特殊性と可能性を最新のトピックスを例として交えながら紹介する.
中平 敦・村田 秀信
加水分解プロセスを利用したナノセラミックス合成を主眼とし,リン酸カルシウム系の加水分解によるナノセラミックスの合成および層状化合物であるハイドロタルサイト(層状複水酸化物:LDH)を利用した加水分解によるナノセラミックスの合成について概説する.
上川 直文
溶液反応において選択的物質透過である「透析」と凝集体の再分散を実現する「解膠」を用いた機能性無機酸化物ナノ粒子の合成法に関する解説である.
原 瑶佑・金森 主祥・中西 和樹
金属塩を前駆体とする相分離を伴うゾル-ゲル過程において,溶媒組成を工夫することにより,乾燥・焼成過程で細孔構造を損なわずにセラミックス多孔体モノリスを得る方法を開発した.
増田 佳丈・白幡 直人
セラミックス領域において,ソフトケミストリーに基づいたナノ材料開発が進展している.本稿では,シリコンナノ粒子薄膜や酸化スズナノシート構造膜,二酸化チタンナノ構造膜等の複数のナノ構造薄膜について,開発事例を紹介したい.
細川 三郎
有機溶媒中でのソルボサーマル法は,独特な反応機構により金属酸化物ナノ粒子の結晶化および結晶成長が進行する場合があるため,高い表面積かつ結晶性を併せ持つ新規触媒材料の開発に繋がる可能性を秘めている.
細野 英司・藤原 忍
材料の多様な形態制御手法として,金属水酸化物,金属酸化物および金属有機構造体等の目的材料の前駆体結晶の結晶成長・形態制御を利用した材料合成手法について紹介する.
谷口 博基