大石 修治
電子顕微鏡法ならびにその関連技術による解析はセラミックスの研究開発において大きな役割を果たしている一方で,電子顕微鏡装置あるいは手法そのものの研究開発も進められており近年大きな進展が見られています.本誌で前回の電子顕微鏡特集(2009年9月号)が掲載されてから約10年が経過した今,今一度電子顕微鏡法の近年の進展についてレビューすることには大きな意義があると考えられます.そこで本特集では,近年展開されている電子顕微鏡解析技術の開発例や最近の材料解析への応用例を広く取り上げて紹介します. (特集担当委員:佐藤幸生)
溝口 照康・宮田 智衆・清原 慎・中澤 克昭・杉森 悠貴
走査透過型電子顕微鏡法によりガラス,イオン液体,および気体の構造解析を行った研究成果について紹介します.
吉田 要
近年実現された収差補正電子顕微鏡による,ゼオライトの高分解能構造観察技術について紹介する.ゼオライトは電子線への耐性が低いことから,電子顕微鏡観察が制限されており,その限界も含めて解説する.
治田 充貴・倉田 博基
STEM-EELSは材料の原子・元素・状態を理解する分析法であり,近年それらがいよいよ原子レベルで行えるようになってきた.本稿では筆者がこの10年ほどで行ってきた高分解能での研究例をいくつか紹介する.
寺内 正己
物質の機能は,原子同士を結び付ける結合電子が大きく関与している.この結合電子状態を測定する軟X線発光分光装置が汎用化した.この手法でどのような情報が得られるかを,SiとB化合物の例を使って紹介する.
金子 賢治
(S)TEMやFIB-SEMを用いたET法は,従来の二次元像を元にしたナノ解析のみからでは解明することが不可能であった材料内部の立体的情報を得ることが可能な手法である.
佐藤 和久・保田 英洋
楔形に加工したGaN単結晶膜を用いて,超高圧電子顕微鏡による観察可能試料厚さの定量評価を行った.TEMと比較して,STEMの方が高い透過能を示すことが明らかとなった.超高圧STEMは,極厚膜試料における微細組織解析ツールとして有用である.
小林 俊介・幾原 雄一
本稿では,モノクロメーターによる高分解能EELスペクトル計測によるSTEM-EELS法を用いて,Liイオン二次電池正極活物質であるオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の単結晶を用いた一連の解析例を紹介する.
堀部 陽一
本稿では,六方晶マンガン酸化物RMnO3において,TEMによる電子回折法および明・暗視野法を活用したドメイン解析の結果見いだされた,反位相ドメインと強誘電ドメインから成る特異なボルテックス(渦状)ドメイン構造について紹介する
佐川 隆亮・橋口 裕樹・大西 市朗・佐々木 宏和・近藤 行人
ピクセル型STEM検出器は各電子プローブ位置における回折パターンを2次元画像として記録するため,従来型の検出器と比較して試料のより詳細な情報を得ることができる.本稿では,開発したピクセル型STEM検出器のハードウェアと得られた応用データを紹介する.
赤嶺 大志
近年,技術的進展に伴い走査電子顕微鏡の適用範囲は大きく広がっている.本稿では,走査電子顕微鏡による試料表面の強磁性・強誘電ドメイン観察の原理や最近の研究について紹介する.
谷端 直人