特集　全固体電池とその課題：高イオン伝導固体電解質の開発～固固界面の制御と解析

1990年代，Liイオン二次電池が商品化されて以降，私達の生活は様変わりしました．体積あたりのエネルギー密度が他の二次電池に比べて高く，軽量なため，スマートフォンやタブレットPC等小型機器だけでなく，HEV，EVの駆動源としても使われています．しかし現在，その容量・エネルギー密度は，すでに限界に近づいていると言われており，従来型から飛躍的な進歩を遂げる次世代電池への期待が高まっています．中でも全固体電池は，近年，超Liイオン伝導体とよばれる新規固体電解質の開発により，安全性と，性能（高容量，高出力，に加え，より低温，高温での動作）を両立できるものとして活発に研究開発が行われています．本特集では，全固体電池の現状，開発事例，実用化に向けた取り組み，将来展望について紹介していただきます．　（特集担当委員：川村知栄・古賀英一・桑原彰秀）

■ 蓄電池をセラミックスで作る

堀　智・菅野　了次

電池の固体化の取り組みと，現在の研究の主流である硫化物系結晶性Li伝導性セラミックについて述べる．

■ 全固体電池における界面形成とキャラクタリゼーション

林　晃敏・作田　敦・辰巳砂昌弘

本稿では，これまでに筆者らが取り組んできた，固体界面構築を念頭においた活物質粒子の形態制御や活物質表面への電解質コーティング，Li金属負極に適した電解質探索や酸化物電池材料への成形性の付与について概説する．

■ 全固体電池における特異な界面イオン輸送

高田　和典

イオン伝導体の表界面では，バルクとは異なったイオン輸送挙動がみられることがある．それは硫化物型全固体電池においては正極との間の大きな界面抵抗として現れ，実用的な出力性能はこの界面に酸化物の薄層を配することで，初めて達成することができる．

■ メカニカルミリング法による固体電解質材料の作製を通じた粒界抵抗の低減

森本　英行

メカニカルミリング法により得られた酸化物ガラス（非晶質）粉末の圧粉体を熱処理により結晶化させて高イオン伝導性ガラスセラミックスを形成させながら焼結するプロセスを通じて，粒界抵抗の低減を図った固体電解質焼結体について紹介する．

■ 酸化物系全固体電池作製に向けた粉体焼結による固固界面の形成

奥村　豊旗・竹内　友成・小林　弘典

酸化物系バルク型全固体電池を実現する上で，粉体焼結によりデバイス化した際にイオン輸送を妨げない固固界面を構築する必要がある．本稿では，酸化物系での固固界面形成の方法や試作した粉体焼結固体電池の特性について紹介する．

■ 酸化物系固体電解質を用いた全固体電池の作製

金村　聖志

酸化物系固体電解質を用い，焼結法およびエアロゾル性既出法による正極層形成を行い，負極にリチウム金属を使用した全固体電池の作製方法について検討した．その結果，ホウ酸リチウム等の助剤を正極層に使用することで良好な電池特性を得ることができた．

■ 固体セラミックス中における高価数カチオン伝導の実現

田村　真治・今中　信人

結晶構造および構成イオンを厳選することで，固体セラミックス中での高価数カチオン伝導を実現した．本稿では，その実例と開発指針について記述する．

■ マテリアルズ・インフォマティクスによる蓄電池用固体電解質の効率的探索

中山　将伸・ハレム ランディ

本稿では，筆者らが取り組んでいる電池材料研究を題材とした具体的事例について紹介する．

■ 透過型電子顕微鏡法と第一原理計算の連携による固体電解質および電極活物質における固固界面の原子構造とLi イオンの移動機構の解析

桑原　彰秀・森分　博紀・クレイグ フィッシャー

本稿では，Liイオン二次電池材料中に存在する固固界面が電池特性に与える影響を第一原理計算と原子分解能電子顕微鏡を連携させることにより検討した結果について2つの実例を紹介する．

■ パルスレーザー蒸着(PLD)法による全固体薄膜リチウム電池

河村　純一・桑田　直明・石垣　範和・松田　康孝

本稿では，筆者らのグループでこれまでに行ってきたPLD法による全固体薄膜リチウム電池の作成の経験を簡単に紹介したい．