幾原 雄一
次世代電池への期待が高まる中,全固体電池は,近年,超Liイオン伝導体とよばれる新規固体電解質の開発により,安全性と,性能(高容量,高出力,に加え,より低温,高温での動作)を両立できるものとして活発に研究開発が行われています.本誌では2か月にわたり,全固体電池を特集しています.先月号は,「全固体電池とその課題:高イオン伝導固体電解質の開発~固固界面の制御と解析」と題し,全固体電池の課題とその可能性にフォーカスしました.本号では,その実践編として,全固体電池の実用化に向けた,各機関,メーカーの取り組みを紹介していただきます. (特集担当委員:川村知栄,古賀英一,桑原彰秀)
内藤 均・嶋田 貴信・嶋田 修平・山田 知佐・星野 健
宇宙機は温度,圧力に関して極限環境で運用されるため,これらの環境耐性を有する全固体電池の利用が期待されている.本稿では宇宙模擬環境下での全固体電池を用いた試験結果を基に,適用性についても議論する.
宮下 徳彦
筆者らは硫化物系全固体電池の実用化の観点から,Argyrodite型固体電解質に着目し開発を進めている.本稿では,Argyrodite固体電解質の特徴や電気化学特性について,また高性能な全固体電池化の実現に向けて取り組んでいる開発事例等を含めて紹介する.
樋口 弘幸
全固体電池向け電解質として硫化物系が有望視されているが,わずかな水分と反応し硫化水素を発生するという欠点がある.本稿では,結晶構造制御により,耐水性とイオン伝導度を両立させた事例を紹介する.
印田 靖
オハラでは,大気中で安定かつ安全な酸化物系の固体電解質であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス「LICGCTM」を開発し,製造販売している.本稿では固体電解質の特徴と次世代電池としての応用例を紹介する.
堺 英樹
全固体電池・Li空気二次電池に使用が期待される固体電解質には,酸化物系・硫化物系等の候補物質が,開発のしのぎを削っている.酸化物系の候補材料の一つであるLLTOの性能を向上させることができたので,東邦チタニウム製LLTOの特徴を紹介する.
山本 真理・高橋 雅也
スラリー塗工によるシート型電池の作製では,分散性向上や形状保持のためバインダが必要であるが,電池の内部抵抗増大の原因となる.本稿では,電池材料の特性を最大限引き出すバインダフリー・シート型全固体電池の開発について紹介する.
彦坂 英昭・竹内 雄基・獅子原大介・水谷 秀俊
LLZ系酸化物の開発およびLLZを用いた酸化物系非焼結型電池の開発状況について紹介する.
太田 慎吾
酸化物全固体電池用の固体電解質として注目されているガーネット型酸化物と焼結助剤との間で化学反応を伴う反応焼結プロセスを開発し,その焼結温度を電極材料(LiCoO2)との化学反応温度(800℃程度)以下に低減し,一体焼成することに成功した.
吉岡 充・坂東 賢一・石倉 武郎・中居 秀朗・白露 幸祐
これまでに,グリーンシートの積層体を一体焼結させることで界面抵抗の低減を図り,0.1C 相当の充放電が可能な全固体電池の実現に成功している.本特集では,積層セラミックコンデンサ型の積層焼結型全固体電池の構造,サイクル特性や出力特性について述べる.
川村 知栄・伊藤 大悟
IoT社会の浸透により,小型で安全性が高く,過酷環境での使用が可能な電池への要求が高まると予想し,「薄膜電池の応答性」と「バルク電池の容量密度」を兼ね備えた全固体電池を目指し,開発を進めている.MLCC技術を活用したNASICON型酸化物系固体電解質材料の微粒子合成,電池の薄層・多積層化、一括焼成について検討した内容について紹介する.
佐々木俊介
全固体薄膜Li二次電池は低容量ながらも,高い安全性,薄型,軽量,フレキシブル,長寿命等の唯一の特徴を持つため,今後幅広い応用が期待されている.今回は当社の量産技術と標準的な試作電池の評価結果を紹介する.