菅沼 克昭
医療用材料にはその目的用途に応じて実に様々なタイプの材料が存在しますが,本特集ではその中でも特に生体内にて使用するタイプの材料に着目し,最新の開発研究や製品情報を紹介します.医療用セラミックスといえば,骨や歯などの硬組織の代替材料として主に使用されてきました.しかし近年では,さらに抗菌機能を兼ね揃えたものや,軟組織の再生およびドラッグデリバリー的使用を見据えた材料も数多く研究されており,非常にバラエティーが拡がりつつある状況です.また,これまでの硬組織代替材料研究で得た知見を応用して,有機ポリマー材料の高機能化に繋げた例も増えてきています.このように,今後も医療用材料分野におけるセラミックス研究の重要性は高まることが期待されています. (特集担当委員:小幡亜希子・中村 真紀・竹内あかり)
中島 武彦
本邦におけるセラミックス人工骨使用の歴史について述べ,人工骨使用の目的を達成するための製造技術の課題を紹介した.また,バイオセラミックスの実用化に対して必要な薬事申請に関する留意点を挙げた.
相澤 守・松本 守雄・石井 賢
近年の医療業界では,人工骨や人工関節等をはじめとするインプラント材が広く普及しているが,それらの使用後の術後感染症は重篤な合併症の1つであり,近年問題となっている.本稿では,簡便な溶液プロセスにより,バイオセラミックスに耐感染性(抗菌性)を付与する技術を紹介する.
上田 恭介・上田隆統志・成島 尚之
Ti-Au合金の大気酸化処理や二段階熱酸化法によりAuナノ粒子担持チタニアコーティングを作製した。これらのコーティング膜は可視光照射下における光触媒活性を発現し、抗菌性を有することが示された。
李 誠鎬・春日 敏宏・中野 貴由
骨形成を促進する無機イオンを導入したリン酸塩インバートガラスの研究、および生体活性ガラスを導入した無機/有機複合スキャフォールド(細胞足場材料)の研究について紹介する。
上園 将慶・高久田和夫・菊池 正紀・森山 啓司
東京医科歯科大学および独立行政法人 物質・材料研究機構との共同研究によって開発したハイドロキシアパタイト/コラーゲンナノ複合体コーティングの有効性について動物実験で得られた成果について報告する。
笠原真二郎
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)はインプラント材料として用いられているが、骨との結合能を持たない。弊社では PEEK 表面に骨組織が侵入可能な多孔層を形成する技術、骨結合性のセラミックス粒子を固定化する技術を開発したので、その概要を紹介する。
横井 太史
リン酸カルシウムは骨組織との親和性が高いため,人工骨の素材として広く用いられている。本稿では次世代人工骨への応用を目指した階層構造が精密に制御されたリン酸カルシウム/高分子複合体の創製について紹介する。
野々山貴行・木山 竜二・深尾 一城・安田 和則・黒川 孝幸・龔 剣萍
近年これまでの常識を覆す高強度ゲルが活発に報告されており、軟骨などの結合軟組織の代替材料としての臨床応用が期待されている。このようなゲルを生体内で固定する際の無毒で強固な接着手法として、HApを介したゲルへの骨形成進展について紹介する。また構成要素の類似点から骨組織の粗視化モデルとしてゲル−バイオセラミックスの複合体を用い、HApの配向と高分子ネットワークの空間異方性の関係を紹介する。
本津 茂樹
歯のエナメル質は欠損すると二度と再生されることはない.このエナメル質を歯に貼付するだけで簡単に修復・保存できるフレキシブルハイドロキシアパタイトシートを開発したので紹介する.
吉満 亮介・長野 靖之・森 大三郎
社会の高齢者化に伴い、歯の根元のむし歯(根面う蝕)の増加が大きな問題となりつつある。当社では,これまでグラスアイオノマーセメントの開発で培ってきた技術力を応用し,亜鉛等のさまざまなイオンを放出することにより根面う蝕の進行抑制や再石灰化の促進を期待した「BioUnionフィラー」の開発に至った。本稿では,BioUnionフィラーの開発経緯とその特徴について紹介する。
岡田 正弘・松本 卓也
本稿では,ナノバイオセラミックスを用いた新しいタイプの生体組織用接着材を紹介する.この接着材は,軟組織など水を含むハイドロゲルと瞬時に接着し,従来の医療用フィブリン糊よりも高い接着強さを示す.
永田夫久江
体内で安全に分解・代謝可能な材料のみからなる微粒子を開発した。生分解性ポリマーのコアと、アパタイトのシェルからなるコアシェル型粒子であり、徐放性と生体親和性を兼ね備えた粒子としてDDS素材へ展開している。
中村 真紀・大矢根綾子
リン酸カルシウムのナノ粒子は,薬剤などの機能性物質を生体内に送達するための担体として有用と期待されている.本稿では,種々の機能性物質を担持したリン酸カルシウムナノ粒子の簡便・迅速な液相合成技術と,バイオメディカル応用の可能性について紹介する.
中村 仁・鳴瀧 彩絵・大槻 主税
筆者らは,生体微量元素や薬剤分子の徐放機能をもつ有機修飾層状化合物の構築を目指している.本研究では,ケイ酸およびリン酸層状化合物の有機修飾による化学耐久性の向上や生体親和性への影響について述べる.