塚本 昇
航空機の輸送量は今後20年間で約2倍まで増加することが予想されており,燃費に優れ,CO2等の排出の少ない低環境負荷の次世代航空機用エンジンの開発が強く求められています.従来金属材料の課題であった耐熱性や軽量性,また,セラミックスの課題である脆性破壊を解消したセラミックス基複合材料(CMC: Ceramic Matrix Composites)は,次世代航空機エンジン用材料として注目されており,既に最新のジェットエンジンに一部採用されるなど,近年,実用化が加速しています.本特集では,最先端の航空機産業向けセラミックスとして,進化を続けるCMC,および,CMCを使用時の過酷環境から保護し,高温利用を可能とする耐環境コーティング(EBC: Environmental Barrier Coating)について,その最先端研究開発の事例を紹介します. (特集担当委員:芦澤宏明)
香川 豊・佐藤 光彦・七丈 直弘
CMCsの中で航空機用エンジンに用いられるSiC/SiCに関して、繊維、界面コーティング、製造技術、特性評価、特製解析、計算機科学の利用に関する現状を紹介した。また、耐環境コーティング(EBCs)の現状についても紹介した。
檜木 達也・金山 拓夫・扇谷 聡・福原 俊介・鴨志田圭吾・下田 一哉・鶴井 宣仁・帆加利翔太
従来のSiC複合材料と異なり、繊維/マトリックス界面が無くBN粒子をマトリックスに分散させたSiC複合材料を開発した。本材料は耐酸化性、高温疲労強度、コスト等で、既存の材料に対して大きな優位性を持つものである。
福島 明・関川 貴洋・牛田 正紀・野上 龍馬・田麥あづさ・西川 紘介・栗村 隆之・松本 峰明・垣澤 英樹・長谷川良雄・新関 智丈・粂田 和弘
航空機用エンジンの高効率化のために,低コストで耐環境性に優れる酸化物セラミックス系軽量構造材料(Ox/Ox)の実用化が望まれている.本資料では,低コストで高靱性なOx/Ox 部材の開発について紹介する.
伊藤 暁彦・後藤 健
繊維強化セラミックス複合材料は,タービンブレードの軽量化と耐熱性向上に貢献する材料である.部材を高温水蒸気雰囲気から保護し,長期運用の安全性を担保するには,損傷許容性と化学的安定性を兼ね備える界面制御コーティングの開発が必須となる.
吉田 克己
本稿では,従来法と比較して簡易であり,短時間で均一な被覆が可能な低環境負荷・低コストプロセス技術である電気泳動堆積(EPD)法を用いたSiCf/SiC複合材料のカーボン界面層形成プロセスの開発について紹介する.
須山 章子・鵜飼 勝・秋元 恵・西村 俊城・田嶋 智子
SiC/SiC複合材料を構成するSiC繊維5種類,界面材料3種類,マトリックス4種類の300℃高圧水中における水熱腐食特性について紹介する.
北岡 諭・山口 哲央・横井 太史
EBC候補酸化物中の物質移動データを基に環境遮蔽性と構造安定性に優れるEBCを設計する方法について述べるとともに,その指針に従いダブル電子ビームPVD法を用いて形成した多相積層EBCについて紹介する.
小川 和洋・北原 匠
次世代航空機エンジン用セラミック基複合材料実現のために必要不可欠な技術である耐環境コーティングの開発に対し,溶射技術適用の可能性と得られた皮膜への自己治癒機能の付与に関し解説した.
長谷川 誠
エアロゾルデポジション法における酸素遮蔽コーティングとしてのムライト層の形成技術と組織および従来のSi結合層や新たに提案されたβ-SiAlON結合層上に形成したムライト層の大気熱曝露における試料の組織変化について紹介する。
垣澤 英樹
セラミックス基複合材料を燃焼ガス雰囲気から保護する耐環境コーティングの密着性を評価するために開発された界面破壊試験法の概要や評価時の注意事項を紹介する。
赤津 隆・篠田 豊・若井 史博
緻密な耐環境コーティングは熱応力による破壊のリスクが大きい.発生する熱応力を推定するためにはコーティングのヤング率を正確に把握する必要がある.本稿では,耐環境コーティングのヤング率とその温度変化をナノインデンテーション法で評価した実際について紹介する.
梅野 宜崇
EBCは製造時の冷却過程および実機使用時に大きな温度差に晒されるが、材料特性の大きく異なる多相積層構造ゆえに強い熱応力が発生する。界面き裂による破壊が生じない条件を導くための、数値解析によるき裂のエネルギー解放率評価を紹介する。
小谷 正浩・中村 武志・金澤 真吾・隠善 厚生
航空機エンジンの次世代材料として期待されるセラミックス基複合材料(CMC)とその環境遮蔽コーティング(EBC)の開発の一例として,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料」で開発した1400℃級CMC/EBCを紹介した。