有岡 雅行
焼結とそれに伴う微構造形成は,セラミック部材の製造プロセスにおいて最も重要な工程である.成形した粉体に熱を加えると,全表面エネルギー,界面エネルギーを減少する方向に物質移動が起こり,所望の密度,微構造,形状を持つ部材が生み出される.エレクトロニクス,エネルギー,医療,環境,モビリティなどさまざまな応用分野からの要求に応えるには.焼結技術のさらなる洗練と,新技術の開発が不可欠である.セラミックスの焼結プロセスを予測・制御し,優れた特性を持つ部材を効率良く製造する能力を高めるには,焼結の熱力学・動力学の基礎理論,微構造形成を予測するシミュレーション技術,3次元微構造の直接観察技術の進歩が求められる.また,焼結への電場や応力場の利用,Coldsinteringの提唱により,焼結技術の可能性は大きく広がりつつある.さらに,造形・焼成のシステム化や機械学習など新しい進歩にも対応する必要がある.本特集では,未来への展望を描くために,セラミックスの焼結に関わる科学と技術の新展開について紹介する. (特集担当委員:篠田 豊)
若井 史博
焼結とそれに伴う微構造形成は,セラミックス製造プロセスにおいて最も基本的かつ重要な工程である.焼結の現象論,連続体力学,微構造形成の原理,動力学とシミュレーション,平衡熱力学,表面/粒界構造の基礎をわかりやすく紹介する.
鹿園 直毅・原 祥太郎・Jiao Zhenjun・Yan Zilin
固体酸化物形燃料電池電極の原料粉体から長期運転時の劣化までを予測する数値シミュレーション技術,およびFIB ナノトモグラフィーによる電極3次元構造の計測技術を紹介する.
Arnaud Ndayishimiye・辻 皓介・舟橋 修一・Clive A. Randall
コールドシンタリングは,一軸加圧と僅かな溶媒を使用して400℃以下で酸化物や複合体を作製することができる低温焼結技術である.化学的な分類を元に、ペンシルベニア州立大学での研究例を紹介する.
吉田 英弘・山本 剛久
強電場を利用したフラッシュ焼結や電場支援焼結に関する研究開発が新たな分野として発展しつつある。だがそのメカニズム解明は大きな挑戦である。焼結における電場・電流効果の理解に向けた研究の現状と展望を紹介する。
Richard I. Todd・窪田 泰大・吉田 道之
“フラッシュ焼結”とは粉末成形体に電場を印加した状態で加熱を行うと、ある温度で自己発熱を伴いながら数秒間で緻密化が完了する焼結プロセスである。本稿では、フラッシュ焼結におけるサンプルの電気的および熱的応答の制御因子について概説し、極めて短時間で緻密化が完了する焼結メカニズムの議論を行う。
森田 孝治
本稿では,多結晶材料における透過特性に関する基礎と、放電プラズマ焼結(SPS)法を用いた透過特性と機械的特性を併せ持つ透明多結晶セラミックスの開発について,著者らの最近の研究成果を中心に紹介する.
西山 宣正
大熊 学・若井 史博
セラミックスの機械的な信頼性を保証するには粉体成形・焼結プロセスでの欠陥形成を防ぐ必要がある.最近開発された放射光マルチスケールX線トモグラフィーは内部欠陥の3次元構造をナノスケールで非破壊観察できる.
寺坂 宗太・松原 秀彰・野村 浩
セラミックスの成形・焼結プロセスに関するシミュレーション技術について、モンテカルロ法、有限要素法、分子動力学法を用いた焼結、粒成長、界面のシミュレーションの研究成果を整理し、離散要素法を含めた、粉末成形に関するシミュレーションの最新研究動向を紹介する。
工藤 恭敬
CAD/CAMシステムの登場により、歯科用ジルコニアを用いた審美修復が可能となった。本稿では審美修復を可能にする当社独自の多層着色技術及び結晶相制御技術、さらには短時間焼成技術について紹介する。
近藤 瑠歩
深層学習を使った電子顕微鏡像からの物性値予測がいかにして行われるかと、その予測根拠の可視化方法について解説する。また、周辺分野の近年の動向について紹介する。
山口 祐貴・島田 寛之・藤代 芳伸
本稿では,プロトン伝導体電解質材料として注目されているBaZrO3系セラミックス材料の低温焼結手法について紹介する.界面での化学反応を活用した新たな焼結技術を検討した.
前田 昭博