今月のオープンアクセス記事
亀田 常治
リンは,生命を支える必須元素の一つである.また,リン酸塩化合物としては,化学肥料や蛍光体,食品添加物,洗剤のビルダーなどの生活に身近なところから,リチウムイオン電池の正極材料や人工骨などの最先端材料まで幅広く応用されている.過去を振り返ると,本誌では1985年12月号に「リン酸塩とセラミックス」が特集されている.その当時の執筆者の一部を例示すると,金澤孝文先生が総説,赤尾勝先生がアパタイト人工骨,阿部良弘先生がリン酸塩ガラスを執筆されており,錚々たる顔ぶれである.実に,本号は35年の時を経て久方ぶりの「リン酸塩特集」となっている.読者の皆様には,リンおよびリン酸塩化合物にもとづく材料の深化と拡がりを感じていただければ幸いである. (特集担当委員:中村真紀・後藤知代・小幡亜希子・相澤 守)
山下 仁大
分野横断的な高機能リン酸塩セラミックスの開発を目指して,酸素酸塩としてのナノ構造制御による精緻なマテリアルデザインをイオン導電性結晶化ガラスとバイオエレクトレットを例として紹介する.
菊池 正紀・末次 寧
リン酸カルシウム系生体材料の高機能化について,結晶面からのアプローチを述べるとともに,ナノ複合材料によるその実現と応用展開を述べた。さらに,現状廃棄物となっている特異形状を持つバイオミネラルの応用について述べる。
田中 優実
バイオセラミックスとして知られる水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の構造・組成とイオン分極・伝導挙動との関係について解説するとともに,静電式振動発電への応用展開に向けた可能性について論じる.
長谷川丈二・中西 和樹
チタニア粒子をリン酸水溶液に浸漬・反応させることで、様々な形態を有するリン酸チタン結晶粒子を合成することに成功した。得られた各リン酸チタン化合物のリチウムおよびナトリウムイオン吸蔵特性について紹介する。
武井 貴弘・熊田 伸弘
α型およびγ型があるプロトン性層状金属リン酸塩は、イオン交換容量が大きく、イオン交換剤として極めて有用である。そこで層状リン酸ジルコニウムへの希土類イオンの吸着機構について解説する。
金村 聖志
リン酸塩化合物は,いろいろな分野で実用化されている.ここでは,リンのエネルギー分野における役割について蓄電池を題材として記述する.特に,正極材料および固体電解質材料に関する研究を紹介する.
大倉 利典
リン酸塩ガラスは,構造と物性に対しユニークな挙動を示す材料である.本稿では、リン酸塩ガラスの構造特異性について概説し,その応用として、リン酸マグネシウムガラスを用いた高レベル放射性廃棄物の固定化について紹介する.
小澤 晃代・吉田 朋子
黒リンは可視光から近赤外まで吸収可能な層状の直接遷移半導体であり、光触媒として有望な材料である。黒リンの各種の合成法および、ソルボサーマル合成とその光触媒的水素生成について紹介する。
前田 浩孝・田村 友幸・春日 敏宏
骨修復材料としてケイ酸カルシウム水和物であるトバモライトに着目し、生体機能性を向上させる手法として、その構造内にリン酸カルシウムクラスターを導入する研究について実験と計算科学の観点から概説する。
杉山 茂・劉 志成・佐藤 英俊
枯渇すると人類は滅亡するしかなく,我が国が100%輸入に頼っているリン鉱石を,有効利用されていない鶏糞から安価で容易な手法でリン鉱石等価体として取得する方法を紹介し,我が国をリン鉱石産出国に転換する可能性を示した.
橋本 和明
絵具用顔料として各種無機リン酸塩が使用されている。本稿では,無機リン酸塩顔料として使用されているコバルトバイオレットの色相と発色要因について解説し,そのほかに顔料として利用できるリン酸ニッケル、リン酸銅(Ⅱ)の化合物についても解説する。
松田 信之・中川 草平
現在市場で使われているリン酸塩製品のカルシウム塩を中心に,製法,種類,特性と用途の紹介と,最近の応用例として環境浄化材料,化粧品原料や無煙自己発泡型難燃剤について解説した。
菅原 義之・鈴木 涼子・井戸田直和・塚原 剛彦・國武 雅司・西見 大成
有機リン化合物を表面修飾剤として用いたセラミックス材料のグラフト反応による表面修飾技術として,液−液二相系による層状ペロブスカイトナノシートの表面修飾と層状六ニオブ酸カリウムを用いたヤヌスナノシートの作製について紹介する.
木村 辰雄
世界に先駆けて、両親媒性有機分子を利用したホスホン酸アルミニウムのメソポーラス構造化に成功するとともに、ホスホン酸化合物の反応性を制御することで、骨格内有機基の多様化を実現してきたので、その経緯を紹介する。
川村 知栄
玉野井冬彦
永長 久寛・北條 元
大野 真之