廣田 健
固体中のイオン伝導は,電気的もしくは化学的なバイアスから,キャリアイオンが固体中を流れる現象です.物質によっては,固体であるにも関わらず液体並みのイオン伝導度が得られるため,古くから研究されてきました.近年では全固体Liイオン電池の固体電解質として注目されており,イオン伝導性,安定性,電極活物質とのキャリダイナミクス等の研究が世界中でおこなわれています.本特集ではイオン伝導体に焦点を絞り,新奇なキャリア種,母体物質および現象が織りなす固体中の高イオン伝導について最新の研究をご紹介します. (特集担当委員:植田紘一郎・藤田 悟)
井元 健太・所 裕子・大越 慎一
本原稿では、室温において超イオン伝導性、第二高調波発生(極性結晶構造)、光スイッチング特性を併せ持つ材料Cs1.1Fe0.95[Mo(CN)5(NO)]・4H2Oを報告する。本材料は結晶c軸方向に自発分極をもつため第二高調波発生(SHG)示す。また、室温で超イオン伝導を示すとともに、532 nm光照射によるイオン伝導度の可逆的変化も示す。
吉成 信人・今野 巧
金属錯体は設計性と結晶性に優れており,均質な結晶内細孔を利用したイオン伝導媒体としての機能が注目されている.本稿では,室温以下の温度領域でも水和カリウム超イオン伝導を示す金属錯体結晶の研究例を紹介する.
藤井 進・高 勝寒・タッセル セドリック・桑原 彰秀・陰山 洋
ソフトな性質を持つ陰イオン(ヒドリドやカルコゲン化物)を有する新規の逆ペロブスカイト化合物M3XCh(M = Li, Na; X = H, F; Ch = S, Se, Te)を発見した。ソフトな陰イオンの性質に起因して、低エネルギーの八面体回転や高アルカリ金属イオン伝導性が観測された。
村上 泰斗・八島 正知
従来のプロトン伝導性酸化物では,高い伝導度を実現するために化学置換が必要であり,安定性や高純度試料の合成に難があった.本稿では,化学置換なしにも関わらず既存材料を凌ぐ高い伝導度を示す新プロトン伝導体Ba5Er2Al2ZrO13について紹介する.
八島 正知
高い酸化物イオン伝導度を示す二つの化合物である①新型酸化物イオン伝導体Dion-Jacobson相CsBi2Ti2NbO10−δおよび②新物質の酸化物イオン伝導性六方ペロブスカイト関連酸化物Ba7Nb3.9Mo1.1O20.05の発見と高い伝導性の構造的要因について解説する。
守谷 誠
筆者は、既報の固体電解質の構造と物性を参考にしながら、分子結晶を新たな固体電解質材料として展開することを試みてきた。本稿では分子結晶電解質の特徴と最近の研究成果について紹介する。
今中 信人・布谷 直義
一般的にイオン半径は大きいほど固体中を伝導しにくくなることが知られているが、我々が創製した臭化物イオン伝導体は高いイオン導電率を示し、さらに耐熱性・耐水性にも優れている。本稿では、我々の設計指針、得られた導電率、および臭化物イオン伝導の定量的実証手法を紹介する。
林 晃敏・作田 敦
全固体電池実現のためのキーマテリアルは固体電解質である。本稿では、極めて高いナトリウムイオン伝導度を示すNa3PS4およびNa3SbS4をベースとする硫化物固体電解質の開発経緯について紹介する。
藤原 靖幸・松浦 直人・森分 博紀・太子 敏則
リチウムイオン伝導体として知られる固体電解質材料のLixLa(1-x)/3NbO3とLi3xLa2/3-xTiO3のバルク単結晶育成と、育成したバルク単結晶を用いたイオン伝導異方性および中性子準弾性散乱測定の結果を紹介する.
岩野 司・荻原 直希・内田さやか
本稿ではポリ酸とポリマーからなる結晶性プロトン伝導体について紹介する。これらの結晶は幅広い温度湿度領域で構造安定かつ高いプロトン伝導性を示し、将来の燃料電池や水電解装置における電解質材料設計に貢献することが期待される。
嶺重 温
F-イオン伝導体を用いる電池は革新型蓄電池と位置付けられ、近年注目が集まっている。F-イオン伝導性セラミックスに着目し、特に伝導機構解明やイオン伝導の活性化エネルギーを低減するための取り組みを紹介する。
浦田 新吾・大窪 貴洋
全固体電池の性能向上に欠かせない、アモルファス材料のイオン伝導機構を、量子論に基づく第一原理分子動力学法を用いて詳細に解析した。イオン伝導を向上するためのミクロ構造のダイナミクスについて解析例を紹介する。
相澤 守
清水 醉月
西山 拡