中野 裕美
省エネやCO2削減が喫緊の課題となっています.一方で,工場や自動車からは膨大な規模の熱が環境中に廃棄されています.こうした廃熱を有効に利用することは省エネやCO2削減にとって最も有効な手段です.課題は熱の供給(例えば工場)と需要(例えば住宅)間で時間的空間的にマッチしないことが問題であって,その解決には熱を貯める技術,輸送する技術が必須となります.同様の技術は太陽熱発電やカルノーバッテリーなどにも適用できます.低温~高温廃熱の熱貯槽,輸送用のデバイスとしてセラミックスは必須の材料ですが,研究例は限られており,今後の課題と言えます.当該分野に関する先行技術,海外動向や特許調査などをまとめ,特集として紹介します. (特集担当委員:嶋村彰紘;編集協力:北 英紀)
北 英紀・周 シン
熱の拡散力を制御するには保存力が大きく、安定なセラミックスが不可欠である。そしてセラミックスを潜熱や化学蓄熱機能を有する異種物質と組合わせ一体化したマルチマテリアルとそのプロセスが重要な課題である。
杵鞭 義明・中山 博行・藤田 麻哉・尾崎 公洋
二酸化バナジウムは金属・絶縁体転移に伴い大きな潜熱を示し、それは溶融型PCM材の潜熱に匹敵する。一方で、難焼結性と相転移に伴う構造変化に耐えうる機械的強度の確保が実用化への課題であった。本稿では、それらの課題を克服した開発材の特性と熱マネージメントへの応用を説明する。
能村 貴宏
カーボンニュートラル実現に向けて、蓄熱技術への期待が改めて高まっている。本稿では、セラミックスをシェルとする中高温用相変化マイクロカプセルの開発コンセプト、開発状況、および応用に向けた展望を述べる。
奥原 芳樹・高田 雅介
集光型太陽熱システムでは、太陽光を吸収して赤外光を吸収=放射しない「波長選択吸収膜」によって高いエネルギー変換効率で高温熱源を創り出せる。その高温化・高効率化を目指し、ケイ化物、酸化物、窒化物薄膜の光学設計・耐熱性評価を駆使した開発例を紹介する。
窪田 光宏
本稿では,可逆化学反応を利用した熱貯蔵・利用技術の基本原理,サイクル,研究事例などについて,水酸化リチウムと水蒸気の間で生じる可逆水和・脱水反応を例として解説を行った.
舩山 成彦・髙須 大輝・加藤 之貴
酸化カルシウム/水系化学蓄熱向け高熱伝導度複合材料を開発した.水酸化カルシウムにケイ素含浸炭化ケイ素フォームを組み合わせた複合材料の高蓄熱・熱出力速度性能が実験室規模充填層反応器を用いた実験により示された.
劉 醇一・黒沢 諒・竹内 雅人
日本国内のエネルギーセキュリティの観点で,未利用熱エネルギーの有効利用が求められている.本稿では,筆者らが進めている様々な利用条件に対応可能となったオーダーメイド型化学蓄熱材と,今後の研究開発課題等を紹介する.
山内 崇史・伊藤 幸夫
化学蓄熱材の工業利用に欠かせないサイクル耐久性を飛躍的に向上しながら蓄熱密度も高めた蓄熱成型体に関する研究成果と、それを用いた大規模実験による効果検証例を紹介する
鈴木 正哉・万福 和子
多孔質材料に水蒸気が吸着された際に熱を発生するデシカント蓄熱において、100℃以下での低温にて再生が可能な粘土系吸着剤ハスクレイについて紹介するとともに、ハスクレイを用いた熱利用の例として、モバイル型の熱輸送について紹介する。
郷右近展之
太陽日射の豊富な海外のサンベルトでは太陽熱発電が実用化されている。本稿では米国・欧州で進む次世代太陽熱発電の研究動向を紹介し、熱伝達媒体・蓄熱媒体として期待される化学蓄熱材料・システムの将来展望を概説する。
矢野 敬二
清水 雅弘
新田 藍子・星田 彩夏