今月のオープンアクセス記事
淡野 正信
バイオミメティックスは,生物に由来する構造や機能の発現原理を明らかにし,新たな技術に応用しようとする技術です.自然界には,小さなエネルギーで循環系を達成しているメカニズムやシステムが多く存在します.これを模倣することは,環境負荷をかけない持続可能な社会を実現する科学技術につながります.すでに産業界では,製品やシステムへのバイオミメティックスの活用例が増えており,更なる応用展開が求められています.学術的には,最近のナノ材料研究に刺激を受け,自己組織化・自己参照あるいは階層化といった概念を取り込み,より広範な展開を見せるようになっています.本特集では,最近のバイオミメティック技術の取り組みを紹介します. (特集担当委員:中村真紀,小幡亜希子,後藤知代,相澤 守)
今井 宏明
バイオミネラルを模倣したセラミックスやその合成技術を「バイオミメティックセラミックス」と位置づけ,手本となるバイオミネラルの構造および合成プロセスの本質を概説する.さらに,これらを模倣したセラミックス合成へのアプローチを紹介し,その可能性を検討する
徐 寧浚・後藤 知代・趙 成訓・関野 徹
近年,低環境負荷な低温焼結技術が注目されている.本稿では,自然界のであるバイオミネラリゼーションに着目した,新奇な低温焼結プロセスの開発と低温緻密化メカニズムとその機能化について紹介する
飯島まゆみ・鈴木 道生
古代魚ギンザメは、脊椎動物の中で唯一whitlockiteから成る“歯板”という硬組織を持っている。本報では、この歯板の高石灰化・高硬度の硬組織がwhitlockiteから成っていること、ギンザメという生物が創るwhitlockiteの結晶学的性質、力学的特性を紹介する。
内田 文生・川中 智司・今井 宏起
高分子モノマーに単分散されたシリカ粒子は、斥力相互作用により自己配列が生じコロイド結晶が生成する。結晶生成後に紫外線を照射することや加熱することでコロイド結晶は固定化される。粒子の大きさや分散濃度を変えることで様々な遊色効果を持つコロイド結晶が得られる。
上川 直文
グルコースやソルビトールなどの糖および糖関連分子と二次元形状異方性を有するチタン酸化物および酸化セリウムの板状粒子の複合化による無機酸化物粒子の高次集積構造の自発形成と構造色発現に関して解説した。
増田 佳丈
環境負荷や消費エネルギーの小さな水溶液プロセスによる機能性材料の開発が注目を集めている.本稿では,水溶液中でのSnO2の結晶成長制御について焦点を当てたい.
田川 美穂
選択的に結合する性質を持つDNAを修飾分子として用いると、ナノ粒子間の相互作用と結合を制御して、思い通りの結晶構造へと組み上げることができる。X線小角散乱を用いた構造解析により結晶性を精密に評価することで、水和状態のみならず、乾燥後も結晶対称性を維持できるDNA修飾ナノ粒子超格子の構造条件を見出すことに成功した。これにより、ナノ粒子やその集合体が持つナノスケールの特異な物性を利用できる可能性が出てきた。
穂積 篤
生物の分泌による表面機能の発現メカニズムから着想を得て開発した,傷やぬれ性の自己修復,潤滑剤徐放による物質の付着抑制,といった表面の状態や機能が外部刺激により動的に変化する次世代バイオミメティック材料について著者らの最近の研究事例を紹介する。
高原 淳・檜垣 勇次
生体は様々な表面微細構造と表面官能基で濡れ性、防汚性を制御している。本稿では表面の階層的な凹凸形成による疎液性表面、生体模倣双性イオンポリマーブラシによる超親水性防汚表面、液体を保持した表面による防汚性ついて筆者らの研究を解説する。
井須 紀文
脱炭素社会を実現するための一つのヒントは,エネルギーや物質を効率良く利用している生物や地球にあると考えている.本稿では自然に学び使用時のエネルギーを削減する住宅用セラミックスについて述べる.
大里 齊
大倉 利典