今月のオープンアクセス記事
清水 陽一
本研究会は,2002年10月に設立されたハイブリッド材料研究会を源流とし,約20年にわたって中心活動メンバーを入れ替えながら活動してきた.研究会が特に大切にしている理念が,専門を異にする研究者が世代や分野を超えてつながるプラットフォームの形成,そして新興・融合科学領域の開拓である.本特集号では,当該開拓に資するハイブリッド材料研究に関する最新の成果を紹介する.また,読み進めていくとハイブリッド化は物質のみに使用する概念ではないことに気づいていただけるであろう.
これまでセラミックス協会等より支援を受けて成長してきた本研究会は,今では多様な研究者が複眼的視野で物事を捉え,そして調和して問題解決を図るための重要なコミュニティーとなっている.特集された研究記事に触れながら研究会が提案する新しいハイブリッド材料研究について読者と一緒に考える機会としたい. (特集協力:研究会「新しいハイブリッド材料を考える会」)
本特集では、ハイブリッド材料研究会が歩んできた道のりを振り返りつつ、研究体が取り組んだ学際化と新陳代謝、そして議論を深めた「次世代を担うハイブリッド材料」について読者と一緒に考える機会としたい。
高見 剛
異種化学結合として、主に有機物を特徴付ける共有結合と無機物を特徴付けるイオン結合に着目した。これらが共存する物質としてフッ素化された六方晶窒化ホウ素を見出し、極めて高いフッ化物イオン伝導率を達成した。
原 光生・関 隆広
液晶構造を鋳型として金属アルコキシドのゾルゲル反応にて合成される有機無機メソ組織体は、再現良くナノ周期構造材料を調製できる便利な手法である。しかし、一つの前駆体溶液から調製できるナノ周期構造は一つに限られていた。最近、湿度誘起相転移法によって一つの前駆体溶液から複数のナノ周期構造を調製する手法を開発したので紹介する。
石田 康博
大量の水を含む弾性体「ヒドロゲル」は、環境・生体に優しい材料として注目を集めてきた。その内部を支える3次元網目は、無機系と有機系とに大別され、両者は長らく、別々に研究されてきた。しかしながら2002年の原口らの報告を皮切りに、無機・有機複合ヒドロゲルの科学が、急速に発展している。その一例として、無機成分を異方配向することで、ヒドロゲルの特異な機能に繋げた我々の研究を紹介する。
塚田 学・濱田 崇
架橋型ポリシルセスキオキサンを用いて成形加工性に優れた薄くかつ高耐熱性と高断熱性を併せ持つ断熱材の開発を行った。また、機械学習を用いることで架橋型アルコキシシランの加水分解・重縮合反応における生成物(架橋型ポリシルセスキオキサン)の分子量予測に成功した。
郡司 天博
無機材料と有機材料を分子レベルで複合化させることにより、それぞれの性質を併せもつ新しい機能性材料が開発されている。ポリシロキサンやポリシルセスキオキサンなどのケイ素系高分子を利用した有機-無機ハイブリッド材料の調製例を紹介する。
德田 駿・立石 友紀・古川 修平
内部空間を有する金属錯体多面体(MOP)は集積化制御により多孔性材料を合成することができる。本稿ではRh(II)を有するMOPを構築素子とした多孔性階層構造材料の構築と、マルチスケール空間構造制御について紹介する。
蔵岡 孝治
本稿では、有機-無機ハイブリッドガス分離膜としてオレフィン分離膜と二酸化炭素分離膜、有機-無機ハイブリッドガスバリア膜としてセルロースナノクリスタル及びポリシルセスキオキサンを用いて作製した膜を紹介する。
長谷川靖哉
本解説で希土類イオンと有機分子から構成される有機-無機ハイブリッド材料の高輝度発光特性と高耐久性および光機能特性について紹介する。
中村 雅一
エナジーハーベスティング技術として期待されている熱電変換について、材料に要求される特性を簡単に解説し、要求特性の一つである低熱伝導率を得るにあたり有機無機ハイブリッド材料が有望であることを示す実例を紹介する。
及川 一摩・林 大和
狭小空間での使用を想定した薄くて均質なシート状の疎水性シリカキセロゲル複合断熱材を開発した。本稿では、疎水性キセロゲルの取扱性向上の取組みから燃焼現象の定量化、そして耐熱・難燃化技術について述べる。
髙田 瑶子・濱本 孝一
ウェアラブルセンサデバイスなどへの応用を目指した圧電セラミックス粒子の形態制御技術とその特性に関する研究成果について紹介する。
吉田 純
粘土鉱物は層状構造をもつ無機材料の1つであり、これまで様々な有機物とのハイブリッド材料が報告されてきた。本稿では、(1)粘土鉱物層間でのキラルな金属錯体の規則配列、および(2)粘土鉱物表面・層間を利用した不安定酸化種の安定化、について述べる。
EiKo.
前田 敬