黒田 一幸
近年,持続可能な社会実現を目指した環境・医療問題への取り組みや,情報技術によるデジタルトランスフォーメーションの展開,多様な人材を生かすダイバーシティ・インクルージョンの推進など,国際社会のニーズとマテリアル研究を取り巻く環境は大きく変化しています.このような社会と技術変化を見据え,次代を担う若手人材の活躍が益々期待されます.そこで本特集では,2017年7月号に企画された「未来を担う若手セラミスト」特集を現在のセラミックス材料科学分野でご活躍中の若手研究者に焦点を当てて2号連載として再特集いたします.ご自身の研究内容や今後の抱負・展望を紹介いただくとともに,問題提起や期待など自由なご意見をご執筆頂きます.本特集が,セラミックス材料研究のこれからを考える場となれば幸いです. (特集担当委員:中村真紀,小幡亜希子,相澤 守,後藤知代)
三浦 章
機能性材料に求められる機能の高性能化や組成の複雑化,コロナ禍での実験の制限や働き方の変化に伴い,理論に基づく合成反応設計の必要性は増している.本稿では,第一原理計算や放射光や電子顕微鏡のその場解析による合成反応機構の解析を紹介する.
波多野桂一
(Li, Na, K)NbO3による無鉛積層圧電セラミックスにて,既存のPb(Zr, Ti)TiO3による鉛含有積層圧電セラミックス以上の変位性能を得ることに成功している.その特性の一端とともに,残っている課題や考えうる応用先について紹介する.
柳田さやか
光触媒機能をもつセラミックスは水中の各種の有機物を分解し,かつ重金属イオンを無害化,あるいは除去できることから水処理への応用が期待されている.本稿では光触媒による水中の六価クロム(Cr(VI))の除去と,その反応過程の評価について述べる.
堀田 裕司
一方向凍結成形法(freeze casting法)をリン酸カルシウムスラリーに応用することにより,世界で初めて配向連通気孔構造を有するハイドロキシアパタイト製人工骨(UDPHAp)およびβ-リン酸三カルシウム製人工骨(UDPTCP)を開発した.
町田 慎悟
粘土鉱物などの層状化合物をガラス焼結体やガラス繊維クロスなどのガラス材料に担持し, 得られた材料の吸着特性を評価した研究例を紹介する.
土井 利浩
PZT前駆物質の改良による低温分解化とクラック抑制剤の添加により,従来比で2倍以上となる塗布膜厚200nmでの緻密かつクラックレスなPZT成膜に成功した.厚膜化時,(1 0 0 )/(0 0 1)配向かつ粒径を大きくすることにより残留応力を低減させ,マイクロクラックのないPZT膜を安定して形成できることを見出した.得られたPZT膜はTi比率が大きいほど,圧電特性の電圧依存性が大きかった.
藤村 卓也
層状化合物は柔軟性,易修飾性を兼ね備えた空間を提供するホスト材料として機能する.本稿では層状化合物が提供するホスト空間の特性と色素の光化学的特性を利用した分子検知に関する研究を紹介する.
加藤 邦彦
マイクロ波反応場を利用した三種類の次世代ナノ粒子創成技術,特に酸化チタンのナノ表面設計の特徴,及びに可視光応答性光触媒への応用例について紹介する.
堀口 治子
化粧品の意匠,機能の要求は年々高まっており,さらに法規制対応も厳しくなってきている.これらに対応すべく,高彩度光輝性無機顔料,近赤外遮蔽材料,ジルコニア被覆光輝性顔料の開発に取り組んだ.
上田 純平
近年,長残光蛍光体は材料設計が可能となり所望の特性を付与できるようになってきた.材料設計により,磁石に引き寄せられる白色長残光蛍光体の開発に成功したので紹介する.
山内 英郎
電極に結晶化ガラスを用いたオール酸化物全固体Naイオン二次電池を開発した.この電池は資源の豊富な元素で構成し,安全で無毒な酸化物固体電解質を用いているため,循環型社会への貢献が期待される.
清水 雅弘
酸化物ガラスとその融液における動的物性を計算科学により解析する際に,現在のコンピュータの速度が問題となっているいくつかの事例を紹介する.
馮 斌
先進セラミックス材料の諸特性は,材料内部に存在する転位や粒界などの欠陥に起因している.本稿では,先端電子顕微鏡法を用いた欠陥における原子構造―特性相関性の解明に関する研究を紹介する.
白石 貴久
成膜プロセスと材料の両面から,強誘電体膜の作製に取り組んで参りました.近年では,ペロブスカイト型酸化物のみならず,蛍石型酸化物の強誘電体膜の作製にも力を入れており,準安定相を活用した機能開拓に取り組んでおります.
鈴木 峻平
サーミスタセンサの薄型化,高速熱応答化,フレキシブル化のニーズに対応すべく,樹脂基板上に成膜した窒化物サーミスタを開発した.また,業界初となる260℃の高温環境下における2000時間以上の長期安定性を実現した.
萩原 学
デラフォサイトCuFeO2は安価で無害な元素からなるp型の酸化物半導体として知られている.本稿では,熱電変換素子への応用を指向したCuFeO2配向セラミックスの作製と,ドーピングによる特性向上について紹介する.
濱井 瞭
リン酸八カルシウム(OCP)は,生体骨置換性の骨補填材への応用が検討されている.本稿では,他の材料との複合化により調節されるOCPの化学的挙動が,骨再生に及ぼす影響を検討した研究について紹介する.
青柳 拓也
金融業界では,インパクトファイナンスが近年の潮流である.この潮流は材料研究の分野にも広がっていくと思われることから,本稿ではその概要と,材料研究におけるインパクト分析の重要性について述べる.
増井 敏行
齊藤 寛治
佐藤 泰史