鵜沼 英郎
近年,持続可能な社会実現を目指した環境・医療問題への取り組みや,情報技術によるデジタルトランスフォーメーションの展開,多様な人材を生かすダイバーシティ・インクルージョンの推進など,国際社会のニーズとマテリアル研究を取り巻く環境は大きく変化しています.このような社会と技術変化を見据え,次代を担う若手人材の活躍が益々期待されます.そこで本特集では,2017年7月号に企画された「未来を担う若手セラミスト」特集を現在のセラミックス材料科学分野でご活躍中の若手研究者に焦点を当てて2号連載として再特集いたします.ご自身の研究内容や今後の抱負・展望を紹介いただくとともに,問題提起や期待など自由なご意見をご執筆頂きます.本特集が,セラミックス材料研究のこれからを考える場となれば幸いです. (特集担当委員:中村真紀,小幡亜希子,相澤 守,後藤知代)
辛 韵子
魚の鱗を用いた局所マイクロ波反応場における新規高効率発光カーボンナノ材料の作製,および表面構造制御により汎用セラミックス材料の水酸アパタイトを用いた揮発有機物の酸化分解用新規触媒の開発事例を紹介する.
林 真理子
YBCO銅酸化物超電導体は,従来の低温超電導体と比べて超電導転移温度が高く冷却コスト低減が可能なため,将来技術として期待されている.今回,塗布法によるYBCO薄膜の磁場中臨界電流密度向上技術について紹介する.
長谷川拓哉
層状ペロブスカイトが発見されてから30年以上経った現在,ようやく発見されたセリウム導入層状ペロブスカイトの特徴とそれから誘導される新概念「電荷中性ペロブスカイト層」について解説する.
井野川人姿
直径数nmの鉄,コバルト,ニッケル,銅の金属粒子を,ゼオライトの細孔や層状複水酸化物の層間に形成する手法と,アンモニアの分解反応や水素化ホウ素ナトリウムの加水分解反応への触媒的応用について解説する.
毛塚 雄己
Ca(OH)2添加,及びMg(OH)2添加の液相合成で連鎖状ナノ粒子を作製,また,液相結晶成長によるリング状ナノ粒子の作製,及び粒子サイズ制御を行った研究を紹介する.また,材料としてのカルサイトナノ粒子の展望について述べる.
小野寺陽平
量子ビーム回折実験によるガラスの構造解析の基礎について示し,量子ビーム回折と計算機シミュレーションの連携による酸化物ガラスの研究例について紹介する.また,ガラス構造研究に携わる一若手研究者としての今後の抱負と展望について述べる.
松澤 一輝
サスペンションの流動性を向上するために「分散剤」と呼ばれる高分子が使用されている.その歴史を概説するとともに,分散剤に対するフッ化物の影響を著者らが研究した例を参考に,分散剤が抱える課題の解決に向けた展望を論じる.
関 隼人
電解液に水溶液を用いた,水系リチウムイオン二次電池の開発.電極上に水素過電圧の高いZn被覆を行うことで,高電圧動作時に問題となる水の電気分解反応を抑制できることを見出した.
新井優太郎
大気圏再突入など酸化雰囲気で2000℃級の熱に曝露される航空宇宙用耐熱材料として,セラミックス及びセラミックス複合材料のこれまでとこれからについて自身の研究内容を絡めて解説する.
松下 佳雅
優れた赤外線透過特性を有し,プレス成形も可能な新しいカルコゲナイドガラス材料を開発した.さらに,これを用いて試作した遠赤外線用レンズではコントラストの高い赤外線画像が得られる等,従来のレンズよりも性能の向上が確認できた.
大熊 学
SPring-8の放射光X線CT技術が,セラミックス部材の信頼性を高めるプロセス技術の開発や,電子デバイスの性能や耐久性の向上,靱性強化機構の解明に有用であることを,アルミナや積層セラミックスコンデンサー(MLCC),ガラスセラミックスを例に取り上げて紹介する.
寺西 貴志
誘電体分野において,次世代コンデンサに向けた革新的材料の創出と,誘電体の新しい機能抽出は今後重要な課題となる.これらの課題に向けたアプローチと,筆者らが取り組む誘電体の二次電池材料としての利用可能性について紹介する.
薄井 智靖
電気熱量効果は強誘電体への電場印加・除去に伴うエントロピー変化を用いた吸発熱現象である.本稿では強誘電体セラミックスの積層体における電気熱量効果の測定法と冷却システム用素子としての応用事例を紹介する.
稲垣 友美
車載用フィルムコンデンサの小型化を可能とする有機無機コンポジット材料を開発した.シミュレーションを用いて設計した材料を実現したプロセスの概要と得られたコンポジット材料の性能を紹介する.
林 幸壱朗
材料構造は組織再生と密接に関係する.本稿では均一な構造であり,構造が組織再生に与える影響の解明に適しているハニカム材料に着目し,ナノ~マクロスケールでの構造と骨・骨髄再生の関係性,抗菌性について述べる.
中田 圭美
筆者は湿式合成による機能性酸化物粉の研究開発に従事している. 本稿ではその一部として酸化亜鉛の前駆体である塩基性亜鉛塩の亜鉛溶出特性の制御について紹介し,創傷治癒剤,骨再生治療剤としての有効性について述べた.
松野 昌幸
グラスライニングは高腐蝕環境でも使用できる性能を有しているが,化学的耐久性に関する構成成分の影響の知見は少ない.そこで,本稿ではグラスライニングの耐蝕性能を把握し,ZrO2の耐アルカリ性能に関する影響について検討した.
李 誠鎬
無機イオンの細胞機能を活性化する効果に注目した,生体用ガラス系材料の構造とイオン溶出挙動の制御に関する研究を紹介する.
相見 晃久
戸村 信雄
森賀 俊広・村井啓一郎
辰巳砂昌弘