今月のオープンアクセス記事
今井 宏明
科研費助成事業学術変革領域研究(A)「超秩序構造が創造する物性科学」において,セラミックス研究の新展開が起ころうとしている.「超秩序構造」とは,ドーパントや空孔によって形成される特異ナノ構造体を指し,さまざまな材料に高機能性を付与する重要な新物質相である.具体例として,結晶中の異種元素や空孔による複合欠陥,また,アモルファス中でもトポロジカル的なオーダーを示すナノスケール原子配列などが挙げられる.サイト選択的な量子ビーム技術,大規模第一原理計算や数理解析などにおける近年の目覚ましい発展により,「超秩序構造」を観測し理解することが可能となり,セラミックス材料の高機能化への道筋が切り拓かれる.本特集号では,セラミックスにおける「超秩序構造」の観測・理解・制御の研究への取り組みについて紹介する. (特集担当委員:赤松寛文)
林 好一
結晶のディスオーダーとアモルファスに内在する規則性を材料機能性と関連付けて研究を推進する学術変革領域研究(A)「超秩序構造科学」を立ち上げた.その成り立ちと,プロジェクトを進める上でのマネジメントについて本稿で紹介する.
谷口 博基
学術変革領域研究(A)「超秩序構造が創造する物性科学」においてA01-1試料班創製グループで進めている研究のうち,特に誘電体に関連する研究項目にフォーカスして,我々の取り組みを紹介する.
伊與木健太・脇原 徹
超秩序構造の理解と制御による高機能材料の開発とその社会実装へ向けたスケールアップ検討を目的としているプロジェクトの成果の一例として,ゼオライトの合成と応用における超秩序構造の解析と制御の研究を紹介する.
小原 真司・手跡 雄太
我々の学術変革研究においては非晶質材料の構造計測の中でもとくに酸化物ガラスに注目している.最近,本学術変革研究において,X線回折,中性子回折を用いて従来の酸化物ガラス・融体からかけ離れたいくつかの超秩序構造を発見したので紹介する.
石川 毅彦
3Dプリンティングを含めた様々な製造プロセスは,試料を溶融状態で扱うため,それらのプロセスの数値シミュレーションによる最適化において融体の物性値が求められている.本稿では微小重力下での無容器プロセッシングによる超高温酸化物融体の物性計測とガラス形成能の研究について概要を記す.
中田 彩子・宮崎 剛・鷹野 優・森川 良忠
超秩序構造をもつ物質の原子構造,電子状態と物性,機能との関係を明らかにするためには,理論計算による解析は非常に重要である.本稿では,第一原理計算や分子動力学,機械学習を用いた筆者らの取り組みについて紹介する.
志賀 元紀・森田 秀利・大林 一平
非晶質に潜む構造秩序の定量的な評価は,物性発現の理解や材料設計のために重要な課題である.本記事では,著者らが取り組んでいる,原子間の穴の形状を評価するパーシステントホモロジー,化学結合ネットワークのトポロジー解析,また,解析ソフトウェアを紹介する.
大須賀遼太・中島 清隆
金属酸化物や金属ナノ粒子表面に形成される「超秩序構造」を活用すると,再生可能炭素資源であるバイオマス由来の糖類から基幹化学品の原料を誘導することができる.本稿では,固体触媒を利用したバイオマス変換反応に関する最新の研究成果について概説する.
増野 敦信
無容器法によってガラス科学は大きく拡張された.従来のガラス形成則では想定できない組成でもガラス化が可能となり,それらの多くはこれまでのガラスを遥かに超える優れた物性を示す.最先端の構造解析手法を多角的にとりいれることで,これらのガラスは,一般的なガラスには必ず見られるネットワーク構造ではなく,ランダムパッキングとして理解するべきであることがわかってきた.無容器法で合成した高充填密度ガラスの物性と構造について,最新の研究を紹介する.
木村 耕治・林 好一
蛍光X線ホログラフィーはドーパント周りの3次元原子配列を可視化できる強力な手法である.本稿では,その原理,特徴,装置について解説し,本手法により見出された圧電材料と太陽電池材料内の超秩序構造を紹介する.
松下 智裕・橋本 由介・横谷 尚睦
光電子ホログラフィーは結晶中のドーパントの立体原子配列を測定できる.X線光電子分光の特徴を持ち,ドーパントの価数毎に原子配列が得られる.ダイヤモンド中のリンのドーパントを例に測定法について紹介する.
旭 良司
複合欠陥を含む誘電体材料に着目し,その局所的な特異構造と誘電特性の相関を系統的な計算によって理解し,データベース化することにより,新規誘電体材料を発見するための手法を構築する.
菅原 徹