提供:(物質・材料研究機構)菊池 正紀
「アパタイト/コラーゲン骨類似ナノ複合体から作られるさまざまな「やわらかい」セラミックスと骨内反応」
仙名 保
セラミックスは,焼結工程を経て得られるものが多いことや,陶磁器,ガラス,セメントといった用途から,「セラミックス=かたいもの」というイメージがあります.セラミックスには,かたいけれどもろく,加工しにくいという欠点がありましたが,近年では材料面,プロセス面から加工性を高めるさまざまな技術が開発されています.本特集では,ミクロスケールでの強靱さは保持しながらも,マクロスケールでは自在に形を変えることができる「やわらかいセラミックス」に関する,最近のトピックスを紹介します. (特集担当委員:福岡 歩)
福岡 歩
従来のセラミックスに定着している「かたいけれどもろい」というイメージを覆すような,やわらかさ/加工性を有する材料について,本特集号で取り上げたねらいを説明する.
春日 敏宏・西川 靖俊
骨形成を促進するセラミックス基材料を綿形状化することで柔軟性を付与した骨充填剤を開発した.血液の含浸や骨片の包埋などについて操作性が飛躍的に向上し,さらに患部に密着充填できるため治癒効果が高まる.
菊池 正紀
骨の化学組成とナノ複合構造を模倣したアパタイト/コラーゲンナノ複合体は粘弾性を示し,完全に骨代謝に取り込まれると言う機能を持っている.本稿では既に上市した多孔体に加え,最近の研究開発について解説する.
鵜沼 英郎・古澤 利武・湊谷 勤
本稿では,柔軟性を特徴とする2種類の材料について紹介する.ひとつは,PETフィルムを基材とする骨誘導再生用メンブレンであり,良好なin vivo結果を得た.もうひとつは,生体活性ガラスを繊維紡糸して織布にした材料であり,in vivoで骨再生に成功した最初のものである.
作田 敦・林 晃敏・辰巳砂昌弘
硫化物系固体電解質のやわらかさについて解説する.硫化物系固体電解質は常温加圧焼結現象によって,室温の加圧でも緻密な成形体が作製できる.
吉田 浩二・宇根本 篤・折茂 慎一
近年,優れた変形性を有する新たな固体電解質材料として注目を集めている錯体水素化物系固体電解質について,そのイオン伝導特性と,これを用いたバルク型全固体リチウムイオン二次電池開発に関する最近の成果を紹介する.
金森 主祥・中西 和樹
いくつかの有機ポリシロキサン(シリコーン)ゾル−ゲル系において,優れた機械的強度や柔軟性をもつ透明エアロゲルを作製することができた.また,超臨界乾燥を用いることなくエアロゲルと同等のキセロゲルを得ることも可能となってきた.
太田 敏孝
自然界には,コンニャクのようにクニャクニャ曲がるコンニャク石が存在する.これを模倣して作製した可撓性チタン酸アルミニウムセラミックス,人工コンニャク石について紹介する.
三和 晋吉
無機材料であるガラスの特徴を保ったまま,しなやかに曲げることができるという意味での「フレキシブルな材料」としての超薄板ガラスについて概説する.
樽田 誠一
マイカ結晶化ガラスは,機械加工ができる数少ないセラミックスとして知られている.筆者らは機械加工ができ,しかも透明性あるいは透光性をお有するマイカ結晶化ガラスを合成することができたので,それらについて紹介する.
金子 一郎・小泉 佑樹
撹拌法により製造したゾノトライト系けい酸カルシウムは,2次粒子構造を有しており,混合させる副原料によって,機械的特性等の範囲を設計することができる.この特性を活かして高耐熱性断熱材や内装建材等に加工をする事例を紹介する.
今中 信人・布谷 直義・難波 徳郎・佐々木洋和・中島 章
本稿では,本会基礎科学部会におけるロードマップとともに,最近の研究動向として,環境触媒,有用資源や有害物質の分離回収技術,リチウムイオン二次電池用正極材料について紹介する.
長谷川義徳・森 弘樹
ガラス材料が持つ,高い表面平滑性,ガスバリア性,耐熱性,化学安定性,光透過性に,軽量化,フレキシブル性を付加した超薄板ガラスのシート,ロールは,今後も超軽量,薄型,フレキシブルを必要とする次世代アプリケーションへの応用が進むものと考えられる.
寺﨑 信
公設試の研究員には産地の次世代をリードする研究開発が求められると同時に課題解決のための技術支援や人材育成が求められている.陶磁器産業は構造的な不況の分野ではあるが,日本を代表する伝統工芸であり,高い付加価値を付けられる産業であり,生き残りをかけた活動と努力を続けたい.