平尾喜代司
金属フッ化物は,金属カチオンとフッ化物イオンを含む物質であり,有名な蛍石をはじめさまざまな物質が知られております.新規物質の合成や新規合成法の開拓という基礎科学的研究が行われる中,すでに光学分野や生体材料分野で応用されている物質も多々存在しています.今後の更なる展開を考える上で,金属フッ化物の特徴を捉えることが重要であると考えられます.そこで本特集では,フッ化物の合成や応用,企業での活用事例の研究成果を紹介していただきます. (特集担当委員:朝倉裕介)
柳田 健之・加藤 匠・河口 範明
フッ化物はバンドギャップが広く,蛍光体等の光学分野の応用に適している.本稿では,放射線計測用の蛍光体であるシンチレータとドシメータ応用を目指したフッ化物単結晶および透明セラミックスに関して紹介する.
篠崎 健二
酸フッ化物ガラス中ではアニオンは乱雑に存在するのではなく,凝集した構造をとる場合がある.このような構造を持つガラスでの速い核形成によるガラス中への微細なナノ結晶析出や,高い量子収率の蛍光を紹介する.
熊田 伸弘・武井 貴弘・洪 炳哲
白色LED用の赤色蛍光体としてMn4+を賦活したK2SiF6,K2GeF6およびK2TiF6等の4価金属フッ化物が注目されている.最近,筆者らは新規化合物KNaMF7(M;Nb,Ta)を見いだし,これもMn4+の賦活により狭帯域赤色蛍光を示した.これらのMn4+を賦活した金属フッ化物赤色蛍光体について解説する.
村田 剛
超低屈折率層の導入は反射防止膜の性能向上に極めて有効である.筆者らはゾル-ゲル法を用い,真空紫外領域においても1.30を下回る超低屈折率を有するMgF2ナノ粒子膜の作製技術確立に成功した.本稿ではその研究成果について,実用例を交えて紹介する.
岡 研吾
フッ化物イオンと酸化物イオンの二つのアニオンを構造中に含む物質は,酸フッ化物と呼ばれる.本稿では,鉛を含む酸フッ化物において,Pb2+に誘起される結合異方性により,フッ素と酸素のアニオン秩序配列の実現することを紹介する.
勝又 哲裕・稲熊 宜之・森 大輔・相見 晃久・米田 安宏
ペロフスカイト型酸フッ化物の結晶構造について,放射光を利用した粉末X線回折とリートベルト解析,X線PDF解析を用いて,その平均構造,局所構造を調べ,許容因子との関係について検討した.
森 一広・藤﨑布美佳・福永 俊晴
国内(J–PARC MLF)の特殊環境中性子回折装置SPICAを利用したフッ化物固体電解質の構造研究について紹介する.
湊 丈俊・小西 宏明・Asuman CELIK KUCUK・安部 武志・小久見善八
フッ化物シャトルイオン二次電池の動作原理,これまでの背 景,経緯,近年の開発状況等について紹介する.
藤平 哲也・高野 吉郎・幾原 雄一
サメの歯のエナメロイドの収差補正電子顕微鏡による原子構造観察とフッ素によるアパタイト結晶強化機構に関する研究について紹介する.
長谷部 類・難波 輝壮
歯科材料であるコンポジットレジン等に用いる無機フィラーとして,フッ化イッテルビウムナノ粒子を合成した.得られたナノ粒子を用いてコンポジットレジンを作製し,高いX線不透過性と透明性が得られることを実証した.
マセセ タイタス