今月のオープンアクセス記事
大倉 利典
超高齢社会を迎えた我が国においては,いかに健康寿命を延ばし,平均寿命との差を縮めるかが大きな課題となっています.健康寿命の延伸のためには,疾患の予防や早期診断技術,負担の少ない治療技術の開発等が必要です.本誌2017年3月号「診断や治療に役立つセラミックスナノ粒子」,2020年3月号「生体組織の再生および治療用バイオセラミックス」でも取り上げたように,セラミックスは医療分野においても重要性の高い材料となっています.本特集では,健康長寿社会の実現に向けたセラミックス材料等による予防・診断・治療技術の開発について,最新の取り組みを紹介します. (特集担当委員:中村真紀,小幡亜希子)
相澤 守
今号は「健康寿命社会を実現するセラミックス」と題する「バイオセラミックス」に係わる特集であり,本文はその巻頭言である.本特集に寄せて,バイオセラミックスのこれまでとこれからを概観したい.
竹井 邦晴
高齢化やウイルス感染症によるパンデミック社会においても安心・安全・快適な生活を提供するには健康であることが重要である.その一つの方法として,近年ウェアラブルデバイスによる常時健康管理に注目が集まっている.本稿では,この遠隔見守りに向けた無機ナノ構造体をセンサ材料として用いたフレキシブルセンサシステムについて紹介する.
大矢根綾子・奈良崎愛子・中村 真紀・宮治 裕史
筆者らは近年,バイオミネラリゼーションに倣った液相成膜技術(過飽和溶液法)と光技術を組み合わせることで,迅速かつ部位特異的な薬物担持アパタイト成膜技術を開発した.本稿では,本技術の基礎と歯面改質応用研究について紹介する.
田畑 美幸・宮原 裕二
う蝕の進行は歯表層のpHと関連していることは知られているものの詳細な評価は行われていない.小型化・加工性に優れたIr/IrOxを用いてワイヤレスマイクロpHセンサを作製し,健康な歯根,非進行性う蝕,進行性う蝕をpH値により識別できることを見出した.
中村 教泰
近年,低分子医薬に加え,抗体医薬,細胞製剤など多様な医薬モダリティの実用化が進むと共に,セラミックスの医療応用が進展している.本稿では筆者らが新規に開発した有機シリカ粒子を用いた研究を紹介する.
井藤 彰
健康長寿社会実現に対して,再生医療の発展は健康寿命を大幅に延伸するキーテクノロジーとなりえる.本稿では,磁性ナノ粒子を用いた再生医療プロセスの開発について筆者らの研究を例に紹介する.
梅津 将喜・上高原理暢
マクロ気孔とミクロ気孔を兼ね備えた骨補填剤として,リン酸カルシウム顆粒を結合し硬化する人工骨セメントの開発が行われている.本解説では,骨再生能力の高い準安定なリン酸カルシウム球状多孔質顆粒の作製方法と,これらの顆粒を用いた多孔質セメントについて紹介する.
鈴木 治・川井 忠
リン酸八カルシウム(OCP)は,生体内吸収性を示して骨形成を促進する.近年,歯科領域でOCP/コラーゲン複合体がインプラント併用可能な骨補填材として認可された.OCP骨補填材および骨再生への応用について解説する.
高橋 広幸・中野 貴由
脊椎の椎体間固定術に対して,従来法で主流である骨癒合を得るための自家骨充填を使用せず,骨基質配向性(コラーゲン線維/アパタイト結晶の配向性)に着目した椎体間固定デバイスの製品化に世界で初めて成功した.
永山 仁士・今井 健史
ジルコニア製歯科補綴物は,デジタル技術革新を追い風に2000年頃から市場が広がり始め,今では一般的な材料の一つとして世界的に認知されるようになった.本稿では,歯科補綴用途のジルコニア開発の歴史と最新の技術動向及び開発製品について紹介する.
小幡亜希子・春日 敏宏
本稿では,ゾルゲル法とエレクトロスピニング法を組み合わせて作製したわた状繊維構造を有するケイ酸カルシウム系生体活性ガラス,および銀を導入したガラスについて紹介する.
中川 泰宏・劉 宇涵・會田 雄大・安楽 泰孝・生駒 俊之
ハイドロキシアパタイト(HAp: Ca10(PO4)6(OH)2)は,骨や歯の主要な無機成分であり,優れた吸着特性を有している.本研究では,ホウ素(MAAmBO)とリン酸(Phosmer)からなる高分子をHAp表面に修飾することで,アフェレーシス療法への応用を目指したウィルスを特異的に吸着する表面構築を目指す.
伊藤 敦夫
医療技術の実用化を目指すなら,大学や公的研究機関での基礎研究段階から薬事立脚の研究開発を展開することが大切である.本稿では「薬事に沿わない研究」を排除して薬事承認に向かう材料研究の展開のしかたについて説明する.
中村 元風
浅野 忠克
新田 法生
内山 弘章
山崎 貴大